本研究では積分方程式を用いた電磁波動散乱問題の高精度,高速な数値解法の開発を目標に研究を行った.研究期間の初年度においては,電磁波動散乱問題の積分方程式を用いた数値解法の高精度化に取り組み,積分方程式をGalerkin法により離散化する際に通常とは異なる内積を用いることで,特に周波数が小さい問題において数値解の精度が大幅に改善することを確認した.次にこれによって得られた数値解法の計算時間の削減に取り組んだ.当初の研究計画では,Calderonの前処理と呼ばれる,積分方程式に基づく数値解法に幅広く用いられている高速化手法を適用することで数値解法の高速化が可能であると考えていたが,この方法は数値解法中で用いられる反復法の反復回数の削減には有効であるが,当初の想定よりも計算時間を削減できないことが判明した.そこで研究期間の二年目はこの高速化の問題を解決するための研究を行った.その結果として,「初年度に開発した離散化手法で得られた方程式の係数行列を一つの作用素と見なす」という新しいアイデアを取り入れることで,Calderonの前処理とは異なる新しい前処理の開発に成功し,数値解法の高速化に成功した.この成果によって,研究計画とは用いた手法が異なるものの,当初に想定した程度の計算時間の削減を達成することができた.また上述のとおり研究期間の二年目には研究計画には無かった新しい前処理の研究を行ったため,当初予定していた周期問題への本手法の適用に関する研究が研究期間中に行えなかった.これは今後の課題である. また上記の内容は全て学会で発表しており,上記の全ての内容をまとめた論文の投稿を準備中である.
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