保型形式とはリー群の算術商上に定義されるラプラシアン固有関数のことをいう.保型形式は長い研究の歴史を持っており,様々な興味深い性質を持つことが知られている.特に整数論において中心的な役割を担ってきた.そのため,保型形式の諸性質を一般的に明らかにしていくことは整数論の発展において極めて重要である.そして,その保型形式を研究する上で最も重要な理論の一つが跡公式の理論である. 本研究では一般的な代数群に対して定式化されているアーサー跡公式について研究を行い,さらに多変数保型形式の性質を調べることにその研究を応用することが目的であった.より正確に書くと,連結簡約代数群に関するアーサー跡公式の幾何サイドの大域係数と概均質ゼータ関数を関係付けることが具体的な目的となっている.さらに,その関係付けから概均質ゼータ関数の性質を跡公式に反映させることで,多変数保型形式の空間の明示的次元公式やヘッケ作用素の明示的跡公式を研究することが本研究の具体的な目的となっている.最終年度の大きな成果は,Chaudouard氏の研究を基にして,一般のユニタリ群に関するアーサー跡公式の幾何サイドの研究に新たな道筋を得ることに成功したことである.前年度までの研究によって階数2の単純代数群の幾何サイドに関しては,ほぼ完全に解決するに到った.さらに本研究では,一般階数の斜交群に関する正則ジーゲルカスプ形式の明示的次元公式を得ることに成功した.よって,これらの成果の先にある重要な課題は,一般階数の簡約代数群の跡公式の幾何サイドと概均質ゼータ関数を関連付けることになる.そのため,最終年度における我々の成果は,その今後の課題の研究につながるものとなっている.
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