研究課題/領域番号 |
26800011
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大下 達也 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (70712420)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 整数論 / 岩澤理論 / Euler系 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度から引き続いて、Galois変形の岩澤理論の精密化に関する研究、特に双対精Selmer群の擬同型類に関する研究を行った。前年度までの研究では、Galois変形のEuler系から得られるKolyvagin導分と呼ばれるGaloisコホモロジー類を用いて(「代数側」の対象であるSelmer群に対して)「解析側」の対象といえるイデアルを構成して、このイデアルとSelmer群の高次Fittingイデアルの比較を行った。高次FittingイデアルはSelmer群の擬同型類を決定する上で重要な不変量である。この研究では適切な条件のもとで、 (1) 岩澤主予想を仮定すると、1変数の場合(と「1変数の円分変形」という、2変数の場合の特別な場合)には、擬同型類を決定できる精度で、「解析側」のイデアルがSelmer群の高次Fittingイデアルを近似できているということを示し、 (2) 多変数の場合も、解析側のイデアルがSelmer群の高次Fittingイデアルの上界を与えることを示す という成果が得られていたが、(2)の議論には技術的な問題点が多く、非常に煩雑な議論が必要となっていた。本年度の研究では、上記の成果(2)の改良を図った。結果の主張を改良するとは出来なかったが、議論を見直し、落合理氏のGalois変形のEuler系の理論を援用することで、成果(2)の証明を大幅に簡略化、明瞭化することに成功した。この成果と前年度までの成果を合わせた論文は現在執筆中である。 また、本年度は前年度に引き続いて、非可換岩澤理論についての情報収集を行った。特に、総実代数体の非可換岩澤主予想の証明に関連する話題について技術的な議論も含めて細部まで検討を行った。前年度の整数論サマースクールで行った講演と、本年度の情報収集で得られた知見の一部をまとめた記事を、整数論サマースクールの報告集に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの研究で得られた成果と手法は、本研究で基礎となるものである。本年度の研究で前年度の結果の証明の議論を大幅に改良することが出来たため、今後の研究ではより精度が高く、扱い易い手法を用いることができるようになると期待できる。この点から、本年度の進展は有意義なものであると考えられる。 また、非可換岩澤理論についての先行研究の詳細な検討で、研究課題と技術面での問題点が整理されたことは、今後の研究の展開において有益なものである。 しかし、本年度の研究では、技術的な面では有益な進展はあったものの、当初計画していたような、「これまで得られた成果の拡張・精密化」や、「具体的な対象への応用」については十分に達成されていない。従って、本研究の進捗状況はやや遅れていると言わざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、虚二次体上の岩澤加群やGreenberg型のSelmer群の構造の研究や、非可換岩澤理論の精密化などの研究を展開していく予定である。その際に必要があれば、Kolyvagin系などに関連する理論の整備を行う。 また、本年度までの研究を通して、「解析側」のイデアルの降下を論じる際に、係数環が「Galois群の群環」とは限らない場合には問題が生じること、更に1変数の場合にはその問題が(技巧的な方法により)回避できることが明らかになっている。この問題は「係数環がGalois群の群環でない場合にはChebotarevの密度定理を用いるEuler系の議論がうまく機能しない」という点に起因するものであると考えられる。今後は、この問題について、「問題への対策を講じて、多変数の場合への有効なアプローチを考える」という観点と、「1変数の場合の特殊事情の応用を考える」という観点から研究を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降の研究費の不足が見込まれるため。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額については、前年度に引き続き、研究成果の発表や、専門家との議論、研究集会参加による情報収集などの旅費や、専門書等の研究資料の購入、パソコン及びその周辺機器等の購入等に使用する予定である。
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