研究課題/領域番号 |
26800020
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
橋本 康史 琉球大学, 理学部, 助教 (30452733)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 跡公式 / セルバーグゼータ関数 / 不定値2元2次形式の類数 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、不定値2元2次形式の類数の和に関する新しい漸近公式を導いた。これまでに得られているものは、「すべての」判別式もしくは、「与えられた算術級数に含まれる」判別式に関する和だったが、本研究では、「与えられたペル型方程式が可解である」ような判別式に関する和に対する漸近公式を主要項が明示的な形で導くことができた。このような類数和はヘッケ作用素に関する跡公式に表れるため、length spectrum やラプラシアンのスペクトル分布を調べる際に有用である。また、このような漸近公式は、ペル型方程式の可解性の観点から整数論的にも興味深いと考える。この研究成果については、すでに論文としてまとめ、学術誌に投稿中である。 加えて、この年度は代表的な合同部分群に関するセルバーグゼータ関数の実軸上の値の評価も行った。絶対収束域での値はlength spectrum の分布が直接大きく影響しており、とくに主合同部分群に対しては、同部分群の階数が大きくなるごとに急速に小さくなっていることを明らかにした。非絶対収束域での値の評価には素測地線定理の誤差項評価を用いている。数値実験の結果と比較すると、絶対収束域での評価はほぼ最良の評価が得られていると考えられる。この研究成果については、現在論文作成中であり、近い将来、学術誌に投稿する予定である。 3次元の合同な数論的多様体については、length spectrum の数論的な表示を導くことができているが、重複度の分布については、誤差項評価について克服すべき点が少なくない。この点を克服でき次第、研究集会での発表、学術誌への投稿を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の26年度の研究実施計画と比較すると、非合同部分群に関して、満足できる成果が得られていない。合同部分群の場合には、モジュラー群と商をとって得られる群の上でも、跡の情報がわかりやすかったため、length spectrum の重複度の「数論的な」表示を得ることができた。それに対して、非合同部分群の場合にはモジュラー群との商からえられる群で、跡の情報がそのまま保存されるわけではないため、合同部分群と比較して非常に複雑であることが、満足できる成果が得られていない理由である。 3次元多様体についても、誤差項評価において課題を抱えており、やや研究の進展が遅れている状況である。 一方で、ヘッケ作用素に関する跡公式と深い関連性をもつ類数和に関する漸近公式が得られた点は、予期しなかった成果である。これによって、ヘッケ作用素に関する跡公式という、新たな視点から今後の研究を進めていく糸口が得られたと考える。 また、セルバーグゼータ関数の値についても、予期しなかった成果である。この値については、これまでに、Jorgenson-Kramer (2001) を除き、ほとんど研究がなされていなかった。そのため、26年度に行ったセルバーグゼータ関数の値の評価は、今後の多様体の特徴づけという観点から、重要な研究成果のひとつになりうると考える。 以上、当初の計画と比較し、進展が遅れている点もあるが、当初予期していなかった進展も見られることから、総合的に「おおむね順調」の自己評価とする。
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今後の研究の推進方策 |
まず、非合同部分群については、構造の複雑さと種類の多様性から、すぐに一般論的な研究は難しいため、たとえば、サイクロイド群のようなわかりやすい非合同部分群について調べ、手掛かりをつかむ。このサイクロイド群については、Venkov などによるスペクトルのcuspidalityの研究があり、比較的研究しやすい研究対象であると考えられる。 3次元の合同な多様体上のlength spectrum の重複度の分布については、誤差項評価において課題を抱えている。これについては2次元多様体の重複度の評価を行ったときに用いたものよりも高次元の格子上のexponential sum のよい評価がえられれば解決すると考えられる。 また、26年度に研究した類数和はヘッケ作用素に関する跡公式の幾何サイドにあらわれることがわかっている。研究成果である類数和に関する漸近公式を利用して、ヘッケ作用素に関する跡公式において、スペクトルやlength spectrum の漸近的な分布に関する研究を進める。 さらに、26年度に得られたセルバーグゼータ関数の値の評価は、評価できた範囲が、現在得られている素測地線定理の最良評価に依存している。今後はいくつかの未証明だが現実的な仮定の下で、この範囲を拡大し、評価の精密化を行う。加えて、この評価をすべての合同部分群および高次元の多様体に拡張する。これによって、多様体を特徴づける新たな指標をえる手掛かりになると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の購入に充てる予定だったが、現在在庫がなく執行することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
該当書籍の在庫または代替品を見つけ次第、購入に充てる予定である。
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