平成28年度は、モジュラー群に関するセルバーグゼータ関数の非絶対収束域での値の評価を行った。これまでにもセルバーグゼータ関数の非絶対収束域での値の評価は得られていたが、その評価は、セルバーグ跡公式を用いた、一般的な離散群に関する評価であり、個別の離散群に対してはより精密に評価できると考えられていた。本研究では、モジュラー群に関する length spectrum の不定値2元2次形式を用いた数論的な表示を用いて素測地線定理の誤差項評価を改良する Soundararajan-Young (2013)の手法と、セルバーグゼータ関数の非絶対収束域での値を素測地線定理の誤差項を用いて記述する Jorgenson-Kramer (2002) の手法を組み合わせ、従来のセルバーグ跡公式を用いた評価と最適化することで、モジュラー群に対してセルバーグゼータ関数の非絶対収束域での評価を改良することができた。セルバーグゼータ関数の非絶対収束域での値の評価は、ラプラシアンの固有値の個数をあらわすワイルの公式の誤差項を含め、様々な場面であらわれることが知られている。そのため、本研究成果、およびそれをさらに改良した結果は、関連分野の研究の今後の進展に寄与すること考えられる。加えて、この研究成果はモジュラー群だけでなく、合同部分群への拡張も期待でき、現在取り組んでいるところである。なお、本研究成果はすでに国内の研究集会で発表済みであり、近いうちに国際学術誌へ投稿するべく論文を準備中である。
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