研究実績の概要 |
本年度は, まずランダムディリクレ級数の研究を行った.これはランダムな無限級数の分布がいつLebesgue測度について絶対連続か, あるいは特異(連続)か, という調和解析における基本的な問題に関わる研究である.絶対連続の場合, 分布関数がどれくらい正則か, 特異(連続)の場合, 分布のHausdorff次元はいくつか, ということが問題になる.この研究の動機は, あるLie群上のランダムウォークに付随する調和測度の解析にある.ここでは, 2パラメータを持つランダムなディリクレ級数を問題にした(この問題は極値統計学と関わるものである).あるパラメータ領域で分布は絶対連続であり, さらにその中で, パラメータによって密度関数が有界かつ連続, あるいは密度関数が非有界になることを示した.この特別な場合の分布の絶対連続性は, Jim Pitmanによる問題への解答を与えている.証明には解析数論(一様分布論)におけるWeyl-van der Corputの補題を用いる.この成果は論文にまとめられ, 出版された. また双曲群上の調和関数についての研究も行った.これはグロモフ境界上の調和測度のHausdorff(Patterson-Sullivan)測度との絶対連続性の必要十分条件をエントロピー・ドリフト・体積増大度の不等式の等号成立条件として与えたものである.これにはエントロピー不等式に対する応用がある. また流体力学的極限の一般化についても研究を行い, あるクラスの群に付随する被覆グラフの塔において, 局所エルゴード定理を導いた.
|