昨年度までの半径の小さい CAT(1)-空間上の確率測度のp重心に関する研究で進展があった。CAT(1)-空間は、その断面曲率が Alexandrov の意味で1以下であることを意味する不等式が成り立つ距離空間である。CAT(1)-空間に値を取る確率変数に対して確率測度のp重心を用いて定式化される大数の法則を証明した。これは CAT(0)-空間や直径の小さい CAT(1)-空間に値を取る確率変数に対して知られていた結果の拡張でもある。一般に CAT(1)-空間では距離関数が凸関数でないため、W. S. Kendall 氏が発見した球面上の凸関数を用いて証明した。この結果は論文として出版された。
また、小澤龍之介氏(大阪大学)との共同研究で、全測度が1である測度距離空間の列がオブザーバブル距離に関して収束したときに、リーマン的曲率次元条件と呼ばれる曲率条件が保たれることを証明した。曲率次元条件は、その空間上のボレル確率測度全体の空間である Wasserstein 空間上のエントロピー汎関数の凸性に関する条件であり、測度距離空間のリッチ曲率が下に有界であることを意味する曲率条件である。オブザーバブル距離に関する収束は測度付き Gromov-Hausdorff 収束よりも弱い収束であり、全測度が1である場合には他の知られていた結果の拡張でもある。この結果は論文として雑誌への投稿に向けて準備中である。
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