本研究の中心テーマはトュラエフ余括弧積と呼ばれる演算についての簡明なテンソル表示を得ることである。昨年度までの研究の結果、任意の境界付き曲面に対して解が得られることが判明していた。特に、この結果は高種数の曲面に対する柏原-ヴェルニュ問題を導入できることを示唆していた。平成29年度は、高種数についての結果を論文にまとめることに多くの時間を費やした。曲面のフレイミングの取り扱いを含めた技術的細部に思った以上の時間がかかったが、論文をほぼ完成することができた。また、ゴールドマン括弧積についても考察を行い、斜行的展開と呼ばれる曲面群の特別な座標について、ゴールドマン括弧積を用いた特徴付けができることを示した。これにより、高種数の柏原-ヴェルニュ問題を定義する二つの方程式に位相幾何学的な解釈を与え、一つの決着を付けることができた。以上の研究は河澄響矢氏(東京大学)、Anton Alekseev氏(ジュネーブ大学)、Florian Naef氏(ジュネーブ大学/マサチューセッツ工科大学)との研究協力により実施した。その他、平成29年度には、Gwenael Massuyeau氏(ストラスブール大学/ブルゴーニュ大学)との研究協力により、一般デーンツイストと呼ばれる、曲面上の曲線に対する構成を幾何学的に理解するための試みを続けた。2017年6月にはストラスブール大学にて、また2018年2月には東京においてMassuyeau氏との研究打ち合わせを行った。 トュラエフ余括弧積の簡明なテンソル表示が得られたことは、研究期間全体を通じての大きな収穫であった。これにより、写像類群の研究にゴールドマン・トュラエフ・リー双代数を用いるアプローチの基礎が固まったと考えている。
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