最終年度である平成29年度は,結び目に付随した2重分岐被覆の指標多様体の座標環と可換ノットコンタクトホモロジーが同型となる障害として研究代表者によって導入された幽霊指標について,その位相幾何学的性質を解析するため,多くの計算機実験を行った.この動機付けは,平成28年度までの研究で発見された幽霊指標がトーラス結び目とよばれる比較的単純な結び目についてのみであり,双曲結び目等の補空間がある意味一般的な幾何構造を持つものに対しての例がないという状況に由来するものである.特に,幽霊指標はトーラス結び目にしか存在しない可能性も否定できず,従って,トーラス結び目特有の例外的対象であることも否定できない状況であった. 計算機実験には,名城大学大学院の鈴木心之助氏と共に構築した,結び目の組紐表示をインプットとするプログラムを用いた.計算効率を上げるため,連立方程式の添加や,組紐を用いた方程式の簡約等を行うことにより,以前よりかなり多くの結び目についての実験が可能となった.その結果,双曲結び目に対して初めて幽霊指標を持つ例を発見することができた.これにより幽霊指標の存在はトーラス結び目だけの例外的なものではないことが示されたことは,非常に重要な成果である,また,発見した幽霊指標は無限個存在し,ある意味で線形空間(平面)を形成することもわかった.この成果を,2017年11月に韓国釜山で開催された国際研究集会「the 2nd Pan-Pacific International Conference on Topology and Applications」にて発表し,ArXivに論文3編を投稿した. 上記結果はどのようなメカニズムで導出されたのか,その解明には,本研究課題を逸脱する様な非常に深い理論が必要になると思われる.その意味で,次の研究ステージへとつながる重要な成果となった.
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