研究課題/領域番号 |
26800054
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
鈴木 章斗 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (70585611)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グラフ / ペンダント / スペクトル / 無限グラフ / 散乱理論 / 量子ウォーク / BEC |
研究実績の概要 |
ペンダントをもつグラフのラプラシアンのスペクトルの情報をもとに、臨界密度を計算し、BEC発現とペンダントの配置の関係を探るのが本研究の目的である。これまでの研究の成果によって、ペンダントをもつグラフのラプラシアンのスペクトルを、次のようにして離散シュレーディンガー作用素のスペクトルの言葉に翻訳することが可能である。まず、ペンダントをもつグラフにある変形を加え、ペンダントがないグラフを構成する。すると、この変形に対応するポテンシャルが定義できて、ペンダントがないグラフの離散シュレーディンガー作用素の言葉で、元のグラフのスペクトルを特徴づけることができる。 そこで、本年度は対応する離散シュレーディンガー作用素の研究に注力した。特に、量子ウォークとして近年注目を集めているモデルが離散シュレーディンガー作用素の時間離散版ともいえることを発見し、対応する量子ウォークのスペクトル・散乱理論を発展させることができた。詳しくいうと、量子ウォークを記述する時間発展作用素は、ある方法で離散シュレーディンガー作用素の時間発展作用素として表すことができることがわかった。これにより、離散シュレーディンガー作用素のスペクトルの情報を量子ウォークの言葉に変換可能となった。そこで、これまで知られていなかった、量子ウォークのスペクトル・散乱理論を構築した。スペクトル・散乱理論は、考察する量子力学系の時間漸近的振る舞いとスペクトルを関連させて研究する手法で、BECを調べる上でも有効な手法の一つである。スペクトル・散乱理論の完成により、そのような方法が量子ウォークでも応用可能となった。量子ウォークのスペクトルは、離散シュレーディンガー作用素のそれに比べ計算しやすいので、本研究の遂行上極めて大きなステップとなった。また、副産物として、量子ウォークの弱収束定理を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの研究により、目標となる、ペンダントをもつグラフのスペクトルは、離散シュレーディンガー作用素の言葉を経由して、量子ウォークの言葉にまで翻訳することが可能になった。これにより、スペクトルの計算がより簡単な量子ウォークの言葉によって、BECの研究を行うことが可能となった。これは、当初計画で予期していたことではなかったが、スペクトルの計算の簡単化という点で、本研究にとって大きな前進である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、当初計画とやや違うものの、グラフのラプラシアンから離散シュレーディンガー作用素、さらには量子ウォークへと異なるモデルの間のスペクトルの関係が明らかになったことで、BECの理解に向け、より多くの道具がそろってきた。今後は、これらの道具を利用して、臨界密度を計算し、ペンダントの配置とBEC発現との関連を明らかにする。
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