研究課題/領域番号 |
26800062
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
岩尾 慎介 青山学院大学, 理工学部, 助教 (70634989)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 正値性 / トロピカル曲線 / 旗多様体の量子K理論 / 旗多様体の量子コホモロジー |
研究実績の概要 |
昨年度に続き,可積分方程式の全正部分とトロピカル幾何学の関係を研究した.今年度は主に以下の2つの結果を得た. 1.最も基本的な可積分系である戸田方程式(Toda equation)の全正部分の,実ヤコビ多様体を用いた特徴づけを与えた.可積分系の全正部分は,超離散可積分系の構造の解析に関係する新しい研究対象である.本研究では,戸田方程式の全正部分(=Lax行列が全正(totally positive)であるような相空間の部分集合)が,特異曲線の実ヤコビ多様体の一つの連結成分と,準代数的多様体として同型であることを証明した.この結果は,西山享氏(青山学院大学),小川竜氏(東海大学)との共同研究に基づく.現在共著論文をCommunications in Mathematical Physics に投稿中である. 2.旗多様体の量子K理論と呼ばれる,幾何学的に構成されるある代数の構造が,古典可積分系の一つである相対論的戸田方程式(relativistic Toda equation)の初期値問題の解法を用いて計算できることを示した.この手法によって,旗多様体の量子K理論(の適当な局所化)が,対称多項式のなす体の適当な部分環と同型であることが証明される.さらに,この同型を通じて,(一部の)シューベルト多様体の構造層に対応する対称多項式が,dual Grothendieck 多項式と一致することを証明した.この結果は,池田岳氏(岡山理科大学),前野俊昭氏(名城大学)との共同研究に基づく.現在共著論文をInternational Mathematics Research and Notices に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トロピカル曲線・実代数曲線と可積分系方程式との関係について,一定の成果を得て論文を執筆,投稿まで至った.また,この研究が量子K理論への応用を持つという,当初予定していなかった発見をすることができた.計画時点に持っていた知見とは異なる方向性の発見を得たことから,一定以上の進展があったといえるだろう.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえて,以下の研究が考えられる. 1.full Kostant-Toda階層の全正部分と,それに付随する(であろう)実ヤコビ多様体を決定すること.さらに,もしそのような実ヤコビ多様体が存在するならば,幾何学的に自然な何らかの方法で,Gelfand-Zetlinパターンと呼ばれる実構造と関連付けられるはずである.Gelfand-Zetlinパターンは,可積分系の実構造と旗多様体の構造を結びつける際に重要な凸集合で,何人かの研究者によって様々な面白い性質が調べられている.我々の実ヤコビ多様体の研究からそのような対象が自然に導かれることになると,さらなる発展につながると期待できる. 2.旗多様体の量子K理論の構造を完全に決めること.今年度の成果では,まだ一部のシューベルト多様体の対称多項式表示しか得られていない.一般のシューベルト多様体の対称多項式表示を得るには,より進んだ方法を見つけなくてはならない.現時点では組み合わせ論的手法が有効であると考えられるが,組み合わせ論的手法の習熟には相応の訓練が必要である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2016年度夏に国際研究集会のため海外に行く予定であったが,むしろ国内の研究拠点(名古屋大学)において重要な専門家が集まる会議が開かれたため,当該年度はそちらに参加した.国際集会には,最終年度である2017年度に行くことに変更をした.4年間の研究計画の最終年度として,国際研究集会等でこれまでの研究成果の発表を行うための資金として用いる計画とした.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の夏(8月または9月)に,カナダのトロントでの国際研究集会にて発表を計画中である.またそれとは別に,秋または冬に,トロピカル幾何・表現論関連の国際研究集会での発表機会を検討中である.
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