研究実績の概要 |
はじめに, グラフ理論のアイデアの本質と Lyapunov 関数の構成法を組み合わせることによって, 多状態 SIR 感染モデルの漸近挙動を調べた. その結果, 感染流行の地理的拡大を考慮したパッチ構造をもつ場合に対しても, 新規感染を規定する項に含まれる感染伝達係数が大きいならば, 感染平衡点が大域的に漸近安定であることを示した. 本研究結果をまとめた論文は, 査読付き雑誌 Mathematical Biosciences and Engineering に出版された. 次に, 感受性個体の新規感染を規定する incidence rate に関する再生方程式や, 対応する偏微分方程式系の解の漸近挙動に関する近年の結果を述べながら, SIRS 感染症モデル等に見られる cyclic な個体の性質変化が与える感染平衡解の安定性に関する未解決課題の解決にも貢献した. 特に, 感染伝達係数が有界変動である仮定の下で, 感染齢 (感染からの経過時間) に関する重積分の順序交換を行うことによって, 上で述べた再生方程式が連続型あるいは離散型の遅延方程式に書き直されることも特筆したい. さらには, 感染致死を考慮した再生方程式においても, Chen et al. (2014) が得た感染平衡解が安定であるための十分条件を改善した. 本研究結果をまとめた論文は, 査読付き雑誌 SUT Journal of Mathematics に出版された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は, 多状態 SIR 感染モデルに加えて, 再生方程式および対応する偏微分方程式系の解の漸近挙動の研究に取り組んだ. 感染齢を考慮したモデルの解析を通して, 先行研究の安定性結果を改善しただけでなく, 感染伝達係数が有界であるときに, 遅れをもつ媒介型感染症モデルに書き直されることもわかった. 上記の点から, 申請者の研究は初年度の年次計画に従い, おおむね順調に進展したと言える.
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