研究課題/領域番号 |
26800066
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
江夏 洋一 東京理科大学, 理学部第一部応用数学科, 助教 (90726910)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 微分方程式 / 安定性 / 感染症モデル |
研究実績の概要 |
1.区画間の移動にかかる時間を考慮した SIR モデルの時間大域挙動 本研究結果は,査読付き国際誌 Electronic Journal of Qualitative Theory of Differential Equations において掲載された.感受性個体および感染個体間の接触による新規感染項をあらわす分離形の非線形関数が感染個体数について単調増加であり,線形関数を含めた上に凸である性質を仮定することで,基本再生産数が1より大きい場合および小さい場合において,感染症が根絶された平衡点および感染平衡点が大域漸近安定であるための十分条件をそれぞれ与えた.
2.確率制御および非線形構造型人口モデルによる r/K 選択説の再考察 本研究結果は,査読付き国際誌 PLoS One において掲載された.個体群動態および個体差がもたらす生活史における個体の成長速度をはじめとする内的不確実性を考慮したモデルを提案し,個体の最適生活史スケジュール問題と群動態の理論を統合した.特に,先行研究となる Oizumi R, Unification Theory of Optimal Life Histories and Linear Demographic Models in Internal Stochasticity, PLOS ONE, 2014;9(6):e98746 においては考察されていなかった個体の密度効果および内的不確実性の双方のはたらきによって,生物集団の増加率などの生活史の最適戦略にもたらされる変化について確率制御理論により考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,感染症モデルの大域挙動の考察においては,区画間の個体移動に加えて,移動を終えるまでにかかる時間を考慮た複数の時間遅れを持つ微分方程式系に対しても,Lyapunov 汎関数の構成によって,高々2つ存在する平衡点が大域漸近安定であるための十分条件をそれぞれ与えることができた.さらに,人口集団の動態に加えて,生活史における個体間にはたらく内的不確実性を考慮した人口モデルの解析を確率制御理論を用いて行うことで,ミクロ的およびマクロ的視点の双方で,人口集団の増加率に対してより詳細な議論が行えた.以上の点から,申請者の研究は,年次計画に従って,おおむね順調に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
研究結果を得る過程で得た解析手法を応用し,感染症モデルにおいては,区画間の個体移動にかかる時間だけでなく,回復個体が感染免疫を失って感受性個体となるような免疫損失効果の双方を含めた系における大域挙動の解析を明らかにし,確率制御理論を用いた非線形構造型人口モデルにおいては,不安定な人口動態下における適応戦略を考慮した場合における非線形構造型人口モデルの解析も興味深い課題である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた結果を得るまでの時間と実際に費やした時間に差があったことから,物品費および旅費の使途計画に変化が生じたため.
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果の発信ならびに数値シミュレーションに伴うパソコンの周辺環境を改善するために必要となる旅費や消耗品費にあてる予定である.
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