本年度の主たる成果として,体液性および細胞性免疫応答を考慮したウイルスモデルにおいて,細胞がウイルスに感染して新たな感染細胞が現れるまでの過程を一般の非線形関数を用いた際に,モデルの時間大域的な挙動に関する結果を得た.具体的には,非感染細胞数,感染細胞数,自由ウイルス粒子を含む未知関数から成る遅れをもつ微分方程式系によるシステムにおいて,1つの非感染平衡点および4つの感染平衡点のそれぞれが大域漸近安定であるための条件を得た.その条件の特徴として,細胞内にウイルスが侵入してからウイルス粒子を新規生産するまでの時間に対応する遅れの長さには依存しないことが挙げられる.また,感染細胞の新規生成量を表した非線形関数における本結果は,双線形感染項,Beddington-DeAngelis 反応項を含む飽和型感染項および標準型感染項などの非感染・感染細胞数について単調増加であるような具体的な関数形における先行研究を含むものとなった.また,もう一つの成果として,感染者が免疫を持たない形で感受性個体に戻り,再感染のリスクを持ち続けるような仮定を考慮した SIS (Susceptible-Infected-Susceptible) 感染症モデルにおいて,常に存在する非感染平衡点が大域漸近安定であるための新たな十分条件を得た.この結果に加えて,先行研究における安定性条件を組み合わせることで,非感染平衡点および感染平衡点が大域漸近安定性が基本再生産数と 1 との大小によってのみ決まることが明らかにした.また,近年では,感染者の生息領域が流行拡大と共に広がる様子を表す自由境界問題において,時刻を固定するごとに半空間上で定義される進行波解の存在・非存在に関する新たな結果を得ている.これらの話題については,日本数学会や日本数理生物学会での口頭発表において紹介しているが,査読付き国際誌に今後投稿予定として,興味深く取り組んでいきたい.
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