研究実績の概要 |
プラズマが接触する固定壁付近には境界層 (シース) が形成される.プラズマ物理学では Euler-Poisson 方程式を用いた形式的な議論により, シースが形成されるための条件として Bohm 条件が提案されている.この条件は,正イオンが極超音速でプラズマ領域からシース領域に流れ込む必要があることを意味する.電子と単一種類の正イオンで構成されるプラズマについては,1950 年頃に H. Bohm により Bohm 条件が導出されている.一方,工学で応用されるプラズマの多くは,電子と複数種類の正イオンが混在する多成分プラズマであり,1995 年に K.-U. Riemann はこの多成分プラズマに対して一般化された Bohm 条件を導いている.多成分プラズマの運動は,Euler-Poisson 方程式によって記述される.また,シースは定常的な境界層と観測されるため,数学的には Euler-Poisson 方程式の定常解であると理解できる.本研究課題では,この定常解の数学解析を通して,シースに関する数学理論の構築を目指している. 平成 26 年度までの代表者の研究により,一般化された Bohm 条件のもとでは,3 次元半空間上において Euler-Poisson 方程式の定常解の存在と安定性が証明されていた.平成 27 年度は,3 次元円環領域において球面対称定常解の存在性を解析し, Bohm 条件より強い条件が必要となることを解明した.平成 28 年 度は,この定常解の準中性極限を考察し,境界近傍の定常解の挙動を解明した.平成 29, 30 年度は,摂動半空間において Bohm 条件およびある必要条件を仮定して,定常解の存在および安定性を証明した.
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