最終年度に得た研究成果は二つある。一つは、非線形シュレディンガー方程式の解の大域挙動についてである。この方程式には、解がある適当な条件を満たすと成立するビリアル恒等式と呼ばれるものがある。その恒等式に現れる汎関数を用いて、Akahori-Nawa-Kikuchi (2012)は解が爆発および散乱する十分条件を与えた。最終年度では、その十分条件を弱めることに成功した。そして、次にその十分条件が成立しない場合をどうなるかを考えた。そのような場合の典型例として、斥力型の単純冪をもつ非線形項のタイプや引力型と斥力型からなる二重冪の非線形項のタイプがある。ここでは、斥力型の単純冪を含む一般の非線形項に対しては、すべての解は有界で散乱することを示した。さらには、引力型と斥力型からなる二重冪の非線形項を含む一般の非線形項に対しては、爆発も散乱もしない安定な定在波があることを示した。
もう一つは、二重冪の非線形項を持つ非線形シュレディンガー方程式の基底状態の一意性についてである。基底状態の一意性を得ることはこの方程式の解の大域挙動を調べるのには重要である。これまでの研究により、振動数が十分小さいときには基底状態は一意であることが分かっている。そこで、振動数が十分大きいときの基底状態の一意性を調べた。通常、一意性というのは、基底状態が満たす楕円型方程式の正値解が一意であることにより示される。しかし、この場合については、空間3次元において、正値解は2つ以上存在することが数値計算により示唆されているため、既存の一般論は適用できないと思われる。また、このときは、極限方程式がコンパクト性の欠如のある方程式であるため通常の摂動法を用いては基底状態の一意性を示すことは出来ない。ここでは、ケルビン変換を用いて減衰評価を得るなど基底状態の性質を詳細に調べることでこの困難を克服することが出来た。
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