数理生態学において中心的な役割を担うLotka-Volterra微分方程式とRosenzweig-MacArthur微分方程式が有する、現象とのギャップ(生態学的不安定性)が、「生物の移動」と「環境変動」によってどのように解消されるかを力量のある数学で明らかにして行くという本研究課題について、研究期間の最終年度は、初年度および次年度での成果の拡張を試みつつ、生物的防除にかかる数学の研究も行った。前者については2016年9月の国内学会と12月の海外ワークショップにて成果発表を行い、後者については2016年9月と2017年2月の国内ワークショップ(2件)と11月と国内学会にて成果発表を行った。 天敵の好む別の生物種(additional food)を導入した生物的防除は、間接効果を応用した防除法として知られているが、同研究では、この防除法をあらわす微分方程式を考察し、害虫-天敵の共存平衡点が大域的漸近安定であるための必要十分条件を導出した。同条件が成り立たなくなれば、リミットサイクル(極限閉軌道)が出現するが、この存在が一意であることも証明し、「害虫の個体群サイズがより低いレベルに抑えられる」という間接効果の帰結は必ずしも成立するわけではなく、additional foodの性質によっては、害虫-天敵の個体群動態が激しく振動してしまう状況があり得るという、additional foodの導入に関する一定の数学的示唆を得た。同成果は、科研費研究課題とは目的の大枠は違うが、扱う微分方程式や解析テクニックに類似性があるため、科研費研究課題に対するなんらかの深化が期待される。
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