星・惑星形成過程における角運動量散逸の時間進化の観測的研究

2016 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 26800094
• 研究機関: 国立天文台
• 研究代表者: 安井 千香子 国立天文台, TMT推進室, 助教 (00583626)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: 星・惑星形成 / 赤外線天文学 / 原始惑星系円盤

研究実績の概要

銀河宇宙の最も基本的な構成要素である星は、星間雲の重力収縮により生じた降着円盤の中で誕生することがわかっている。しかし、降着円盤が中心星にガスを落とすには膨大な角運動量を散逸させる必要があり、その肝心な散逸メカニズムは様々な提案はあるものの実は確定しておらず大きな問題として取り残されている(角運動量問題)。本研究では、円盤の異なる進化段階における散逸量を近赤外線輝線の高分散分光から定量的に推定し、生成中の星の各種物理量との相関をもとに、角運動量問題の解決への手がかりを得ることを目的とする。
ターゲットとして、われわれ独自のリストでダスト円盤の進化段階が明らかになっている中質量星のうち観測可能な天体を選択し、京都産業大学と共同開発した近赤外線高分散分光器「WINERED」を用いて分光観測を行った。初年度は、原始惑星系円盤がまだ十分に残っている若い牡牛座分子雲に含まれる天体 (約100万年) に集中し、2年度には、円盤の寿命(約1000万年)近くの年齢の星生成領域(NGC 7160)の観測を進めた。そして、最終年度は、幅広い年齢におけるサンプルを完全にするため、円盤寿命の半分程度の年齢(約300-500万年)の星について観測を進めた。
得られた全てのスペクトルについて、モデルスペクトルのフィットにより星固有の成分を取り除き、星周物質のみに由来するスペクトルを得た。得られたスペクトルを統計的に解析した結果、角運動量散逸メカニズムとして、原始惑星系円盤がまだ十分に残っている段階においては星風や円盤風によるガスの放出が主であり、その後最内縁のダスト円盤の消失とともに中心星による磁場と円盤の相互作用が主であるという時間進化が示唆された。これは、星・円盤の時間進化に伴う両者の相互作用の時間進化への初めての明確な示唆であり、今後、角運動量問題解明への手がかりになることが期待される。

研究成果

• [雑誌論文] A spatially-resolved study of initial mass function in the outer Galaxy (2017)
  • 著者名/発表者名: Yasui, Chikako; Izumi, Natsuko; Saito, Masao; Kobayashi, Naoto
  • 雑誌名: Formation and Evolution of Galaxy Outskirts, Proceedings of the International Astronomical Union, IAU Symposium 巻: 321 ページ: 34, 36
  • DOI: 10.1017/S174392131600942X
• [雑誌論文] Star-formation efficiency in the outer Galaxy (2017)
  • 著者名/発表者名: Izumi, Natsuko; Kobayashi, Naoto; Yasui, Chikako; Tokunaga, Alan T.; Saito, Masao; Hamano, Satoshi
  • 雑誌名: ormation and Evolution of Galaxy Outskirts, Proceedings of the International Astronomical Union, IAU Symposium 巻: 321 ページ: 31, 33
  • DOI: 10.1017/S1743921316011285
• [雑誌論文] Low-metallicity Young Clusters in the Outer Galaxy. II. Sh 2-208 (2016)
  • 著者名/発表者名: Yasui, Chikako; Kobayashi, Naoto; Saito, Masao; Izumi, Natsuko
  • 雑誌名: The Astronomical Journal 巻: 151 ページ: 115, 128
  • DOI: 10.3847/0004-6256/151/5/115
  • 査読あり / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Near Infrared Diffuse Interstellar Bands Toward the Cygnus OB2 Association (2016)
  • 著者名/発表者名: Hamano, Satoshi; Kobayashi, Naoto; Kondo, Sohei; Sameshima, Hiroaki; Nakanishi, Kenshi; Ikeda, Yuji; Yasui, Chikako; Mizumoto, Misaki; Matsunaga, Noriyuki; Fukue, Kei; and 9 coauthors
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 821 ページ: 42, 53
  • DOI: 10.3847/0004-637X/821/1/42
  • 査読あり
• [雑誌論文] Cryogenic performance of high-efficiency germanium immersion grating (2016)
  • 著者名/発表者名: Sarugaku, Yuki; Ikeda, Yuji; Kaji, Sayumi; Kobayashi, Naoto; Sukegawa, Takashi; Arasaki, Takayuki; Kondo, Sohei; Nakanishi, Kenshi; Yasui, Chikako; Kawakita, Hideyo
  • 雑誌名: Proceedings of the SPIE 巻: 9906 ページ: 990637-1, -4
  • DOI: 10.1117/12.2233626
• [雑誌論文] High sensitivity, wide coverage, and high-resolution NIR non-cryogenic spectrograph, WINERED (2016)
  • 著者名/発表者名: Ikeda, Yuji; Kobayashi, Naoto; Kondo, Sohei; Otsubo, Shogo; Hamano, Satoshi; Sameshima, Hiroaki; Yoshikawa, Tomoshiro; Fukue, Kei; Nakanishi, Kenshi; Kawanishi, Takafumi; Nakaoka, Tetsuya; Kinoshita, Masaomi; Kitano, Ayaka; Asano, Akira; Takenaka, Keiichi; Watase, Ayaka; Mito, Hiroyuki; Yasui, Chikako et al.
  • 雑誌名: Proceedings of the SPIE 巻: 9908 ページ: 99085Z-1, -14
  • DOI: 10.1117/12.2230886
• [雑誌論文] First high-efficiency and high-resolution (R=80,000) NIR spectroscopy with high-blazed Echelle grating: WINERED HIRES modes (2016)
  • 著者名/発表者名: Otsubo, Shogo; Ikeda, Yuji; Kobayashi, Naoto; Sukegawa, Takashi; Kondo, Sohei; Hamano, Satoshi; Sameshima, Hiroaki; Fukue, Kei; Yoshikawa, Tomohiro; Nakanishi, Kenshi; Watase, Ayaka; Takenaka, Keiichi; Asano, Akira; Yasui, Chikako; Matsunaga, Noriyuki; Kawakita, Hideyo
  • 雑誌名: Proceedings of the SPIE 巻: 9908 ページ: 990879-1, -12
  • DOI: 10.1117/12.2233845
• [学会発表] 低金属量下における初期質量関数の導出 I: Sh 2-127 (2017)
  • 著者名/発表者名: 安井千香子
  • 学会等名: 日本天文学会2017年春季年会
  • 発表場所: 九州大学（福岡県福岡市）
  • 年月日: 2017-03-15 – 2017-03-18
• [学会発表] WINERED HIGH-RESOLUTION NEAR-INFRARED SPECTROSCOPY OF YOUNG INTERMEDIATE-MASS STARS: INSIGHTS INTO EVOLUTION OF STAR-DISK INTERACTIONS (2016)
  • 著者名/発表者名: 安井千香子
  • 学会等名: 「近赤外線高分散分光観測で探る恒星物理」研究会
  • 発表場所: 東京大学（東京都文京区）
  • 年月日: 2016-10-05 – 2016-10-06
  • 国際学会