研究課題/領域番号 |
26800105
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 邦彦 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (00534562)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 爆発的星形成 / 銀河系中心 |
研究実績の概要 |
1.銀河系中心領域での中性炭素原子雲の広域探査 ASTE望遠鏡を用い、銀河中心半径約100 pc以内の領域に対する中性炭素原子輝線の広域観測を完了した。中性炭素原子のトレースする低密度の分子雲分布は、既知の高密度の分子ガスの分布と予想以上に大きく異なっていた。特に最も明るい炭素原子放射が(高密度ガス質量ではさほど目立たない)いて座A領域中心方向から観測され、中心核巨大ブラックホール近傍にこれまで見逃されていた分子ガスが無視できない量存在すると示唆される。より詳細な調査のためにアタカマミリ波サブミリ波望遠鏡アレイ(ALMA)に観測提案を提出し、採択された。また局所爆発的星形成領域であるいて座B, C領域に、これまで知られていない速度帯に拡散した中性炭素原子輝線の雲の兆候を見出した。これらの初期成果を8月に開催された国際天文学連合の総会において報告した。 また中性炭素原子雲の起源の解明を視野にいれ、多数の分子輝線放射強度分布から分子雲の化学的/物理的諸量を推定する統計モデルを構築した。本年度には巨大分子雲に含まれる主要な分子種8つを含む銀河系中心領域のデータを適用し、化学組成の環境依存性を定量的に評価する解析を行った。その初期成果を3月に開催された日本天文学会春季年会にて報告した。 2.局所的爆発的形成領域の探査 SMA望遠鏡で取得済みのデータに加え、ALMA望遠鏡による新たな観測を行い、局所爆発的星形成領域いて座Cに属するCO-0.3分子雲を観測した。分子雲衝突は爆発的星形成のトリガーの有力候補である。ALMA観測は不完全なものに終わったが、衝突流による高密度フィラメント形成とそれに付随したコンパクトな連続波放射源など衝突誘発星形成の兆候を発見した。これらの成果について欧文学会誌"Astrophysical Journal"上で発表するとともに、9月に開催された国際会議(星間物質シンポジウム)での講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同利用観測の一つ(ALMAを用いた銀河系中心核近傍分子雲の観測)が、2014年度の提案では不採択となり、その影響で研究全体が当初の予定を外れている。そのため他の利用可能なデータを用い、より広域での分子雲化学組成の環境依存性を調査する研究にシフトしたが、当該観測提案は研究の最も主要な計画に含まれていたため、研究の遅延と判断する。一方で中性炭素原子輝線の広域観測については予定通りに完了することができ、研究全体にとっては致命的なものではない。また不採択となった観測は2015年度の再提案によって採択され、順調であれば2016年度中に当初の予定に復帰できる見込みがある。
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今後の研究の推進方策 |
1. ALMAを用いた中心核近傍分子雲の観測 中性炭素原子輝線を用いることで、中心核巨大ブラックホール近傍の分子雲の分布を正確に知ることができると期待される。順調であればALMA望遠鏡によるデータが今年度前半中に取得される予定であるので、それを元に中心核周回円盤付近の密度構造の調査や、中心部1 pc以内の星形成可能な分子ガスの探査を行う。天候条件などにより再び観測が不調に終わった場合は、場合は次項2の研究およびその成果発表に注力する。
2. 中性炭素原子広域観測 ASTE望遠鏡を用いた表題の研究を継続する。主要なデータは昨年度中に得ているので、詳細なデータの解析と、特定の領域ではフォローアップの観測を行う。最優先の解析事項は、中性炭素原子輝線強度を化学/物理状態推定のための統計モデル(研究実績の概要の項1を参照)に組み入れ、正確な中性炭素原子ガス量とその環境依存性を調査することである。ただし中性炭素原子は他の分子と比べて低密度環境に強くバイアスされているため、高密度トレーサー分子のみを対象とした現状のモデルへの単純な組み込みはできない可能性が高い。低密度環境に特化した観測データセットを用いるか、あるいは多密度/温度成分を考慮してモデルを修正するなどの対応を行う。観測では、昨年度の観測でいて座B,Cに発見された新たな中性炭素原子雲に対する追観測を行う予定である。これらは信号/雑音比がまだ十分ではなく、特に通常の分子雲よりも広いスペクトル幅を持つため分光計由来のスプリアス信号の可能性も排除できていない。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に生じた観測提案不採択によるデータ取得の遅延によって、必要な計算資源の質と量が不明瞭となり、購入を見合わせた。また成果発表用に計上していた経費も未使用となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
国際研究会(International Astronomical Union 322)への参加費、および旅費に40万円程度、論文投稿と関連費用(1-2件; 英文校正費含む)に20万円程度、計算資源(データストレージ、故障したPCの代替機)購入に40万円程度を予定している。
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