研究課題
本研究は、星団の形成過程と銀河の運動の関係を明らかにするために、流体/N体シミュレーションを行い、銀河中での星団形成シミュレーションを行うことを目的としている。これまでに、流体のみを扱う分子雲のシミュレーションから、星団のみを扱うN体シミュレーションへ接続する手法を開発した。平成28年度は、その手法をさらに発展させ、分子雲の流体シミュレーションの中で徐々に星が形成する仮定を取り入れ、流体シミュレーションを続けながら形成後の星団を星団に必要な高精度の積分法で扱えるシミュレーション手法の開発を行った。開発したコードは現在テスト段階である。シミュレーションコードの開発と同時にこれまでに行ってきた銀河円盤モデルのシミュレーションの結果をまとめて論文を執筆した。この論文は近日中に投稿予定である。この研究では、銀河円盤中心の棒状構造が発展する条件が、m=2のモードが成長するのに必要な理論的時間に依存していることを明らかにした。これは、棒状構造を持たない銀河では、棒状構造(m=2のモード)が成長する時間スケールが長いために、現在までにはまだ形成していないことを示唆している。この棒状構造の成長に必要な時間は、銀河円盤のダークマターハローに対する質量比といった銀河の構造に依存する。また、星団の母体となる分子雲の観測的研究を行っている研究チームに本研究のシミュレーションの結果を提供し、共著者として論文を執筆した。この論文は平成28年度中に受理され、出版されている(Nguyen-Luong, Q. et al. 2016, ApJ, 833, id. 23, 12 pp.)。さらに、平成28年度はこれまで開発した手法やコードを提供し、宇宙初期に最初にできる星団とその中での星の合体からの中間質量ブラックホール形成のシミュレーションへの応用を行った。この研究結果は、現在論文にまとめて投稿中である。
3: やや遅れている
平成28年度は10月から産休・育休を取得したため、研究の進捗状況は当初の予定よりやや遅れている。
平成29年度はこれまで開発してきたコードを用い、当初の計画通り、銀河円盤のシミュレーション中での星団形成シミュレーションを行う。モデルにはこれまで星とダークマター粒子のみで計算を行ってきた天の川銀河モデルを用いる。銀河円盤全体の中から、渦状腕、棒状構造、銀河中心、銀河外縁部といった場所ごとに形成する星団の質量、サイズ、密度、星団の質量関数などを統計的に調べ、銀河の構造や運動と星団形成のモードの関係を明らかにする。当初の計画では、円盤全体のシミュレーションの前に渦状腕や棒状構造といった部分ごとのシミュレーションを行う予定だったが、ここ数年で、銀河円盤全体のシミュレーションにおいて、粒子分割を行いシミュレーションの分解能を上げる手法やそのためのコードに進展があり、銀河円盤全体を高分解能で計算し、その中で形成された星団を検出し、各構造ごとに分けて分布を見る方が効率的であるため、計画を変更し、最初から銀河円盤全体のシミュレーションを行う。
平成28年度10月から平成29年度3月まで産休・育休を取得したため、予定通りの使用が行えなかった。特に、妊娠期間中は体調と旅行保険の関係で海外出張が難しいため、予定していた出張が行えず、旅費の多くが使用されず次年度に繰り越すこととなった。
当初3年間の研究計画だったが、途中、一度目の産休・育休のため研究期間を1年間延長し、4年間になっている。そのため、一部物品を新たに購入する必要がある。そこで、今年度は、ノートパソコンを1台とワークステーション一台を新規に購入するのに65万円使用する。また、共同研究者のいるオランダ・ライデン大学へ1週間の研究打ち合わせのための渡航、国際会議への出席、国内の学会、研究会での研究発表の費用に50万円使用する。さらに、論文出版費用に10万円を見込んでいる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件) 備考 (1件)
Formation, evolution, and survival of massive star clusters, Proceedings of the International Astronomical Union, IAU Symposium
巻: 316 ページ: 25-30
10.1017/S1743921316000545
The Astrophysical Journal
巻: 833 ページ: id. 23, 12 pp.
10.3847/0004-637X/833/1/23
http://cas.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~fujii/