研究課題
巨大ブラックホール(BH) から噴出する相対論的ジェットの生成機構解明は現代天文学における究極的課題の1つである。研究代表者はこれまでの研究で、ジェット生成領域の構造をシュバルツシルト半径(Rs) に匹敵する空間スケールで探査可能な「多周波相対VLBI」手法を世界に先駆けて実現することに成功した。本研究ではこの手法を更に発展活用し、「ジェットの絞り込み(収束) はBH からどの程度の位置で始まるのか?」、「ジェット生成にBH スピンは必要かどうか?」等について議論し、現在広く信じられている「磁場駆動型モデル」に対する観測的検証を行う。今年度は当初の計画通り、最重要天体M87のVLBA多周波データ解析、特にBH最近傍10Rs領域まで見通せる86GHz帯の高解像度データの解析が中心であった。ただ、86GHz帯データは低周波データと比べ地球大気ゆらぎによる擾乱の影響が大きい。そのため高いSN比で信号検出をするための解析作業、技術的ステップが低周波データと比べ非常に煩雑で多く、当初想定していたよりも解析作業に多くの時間がかかってしまった。現在は解析はほぼ完了、地道な努力の甲斐もあり、非常に興味深い結果が出始めている。M87はBHから100Rsより下流ではシンプルな双曲型で表されるのだが、今回根元側10-100Rs領域のジェット形状を詳しく調べたところ、単一の冪では評価できない複雑な絞り込み形状をしていることを発見した。空間スケールを考えると、これはBH近傍の降着流とジェットが相互作用をしていると考えると説明がつく。このようなジェット生成と降着円盤の相互作用を示唆する結果は未だかつて観測されておらず、今回が初めての観測的証拠となる可能性がある。以上の成果は2015年3月の春季天文学会で口頭発表を行い、関連分野の研究者からも非常に大きな関心を持っていただいた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績概要の欄で説明の通り、今年度は当初予定どおりM87の解析を進めたが、86GHzデータの解析作業が予想以上に時間がかかり、この意味で進行はやや遅れてしまった。しかし、得られた結果そのものは当初想定していた以上に大きなインパクトを含む内容であり、結果的にではあるが全体として研究は順調に進展していると考えている。現在これらの結果を早急に査読論文にまとめており、近日中には投稿できる段階まで進展している。
まずはM87の86GHz観測論文を仕上げ平成27年度の前半中には投稿を目指す。その後は並行して進めている他の天体の解析結果も順次まとめていく予定である。特にターゲットリストの1つであるM84については、現在大学院生1名(総研大 博士課程 中原聡美氏)を研究協力者に迎えデータ解析をサポートしてもらっており、2-43GHzの間の6周波を用いた多周波相対VLBIによるM84ブラックホール位置特定の結果が出揃いつつある。次年度後半頃には結果がまとまると見込んでおり、これに合わせて天文学会や国際研究会で成果発表していきたいと考えている。そして次年度終了時までには査読論文にまとめ、投稿が完了するところまで推進していきたい。最重要天体であるM87については今回の結果を踏まえ、他のターゲット天体と比較した時にもしも科学的重要度が高いと判断した場合には、必要に応じて更なる詳細な論文執筆も検討したいと考えている。それ以外のターゲット天体についても順次観測、解析作業は当初の計画に従い進めていく予定である。
以下の通り主に2つの理由がある。1. 投稿・出版を目標にしていたM87論文が今年度内にまとまらず、その投稿料・出版費用が次年度に持ち越しになったため。2. 今年度に購入を想定していた解析計算機周辺、ソフトウェア、図書書籍関連を次年度に延期したため。
理由欄に記述したとおり、繰り越した金額は論文投稿・出版費、および解析計算機、ソフトウェア、書籍の購入に使用する予定である。
井上科学振興財団 平成26年度(第31回)井上研究奨励賞 受賞
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち謝辞記載あり 6件、 査読あり 7件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 4件) 備考 (4件)
Proceedings of the International Astronomical Union, IAU Symposium
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