研究課題
巨大ブラックホールから噴出する相対論的ジェットの生成機構解明は現代天文学における究極的課題の1つである。研究代表者はこれまでの研究で、ジェット生成領域の構造をシュバルツシルト半径(Rs)に匹敵する空間スケールで探査可能な「多周波相対VLBI」手法を世界に先駆けて実現することに成功した。本研究ではこの手法をさらに発展活用し、「ジェットの絞り込みはBHからどの程度の距離で始まるのか?」、「ジェット生成にBHスピンは必要かどうか?」等について議論し、現在広く信じられている「磁場駆動型モデル」に対する観測的検証を行う。今年度は平成26年度から続いていた最重要天体M87のVLBA86GHzデータの論文化に向けた作業が最優先事項であった。その結果、平成27年6月にApJに査読論文を投稿、幾つかの改訂を経て、平成27年11月に受理、平成28年1月に無事ApJに出版された(Hada et al. 2016, ApJ, 817, 131)。本成果は米国電波天文台のサイエンスハイライトとしてウェブサイトでも取り上げられるなど、科学的インパクトが確かに大きな内容であったことを示している。また、当初の観測天体リストにはなかったが、急速に進展するジェット研究分野の最新の動向を踏まえ、ターゲットとして新たな天体種族「狭輝線1型セイファート銀河(NLS1)」を盛り込むことを決定した。NLS1はブレーザー、電波銀河に続いてガンマ線望遠鏡Fermiによってガンマ線活動が確認された第三のAGN種族であるが、そのジェットの性質は謎に満ちており、近年この種族の構造探査が非常に大きな注目を浴びている。そこで我々はNLS1ジェット根元の超精密探査という観点から切り込むべく、最も代表的かつ近傍のNLS1であるPMN J0948+0022と1H 0323+342について多周波相対VLBI観測を実施した。
2: おおむね順調に進展している
研究実績概要で説明の通り、平成27年度は最優先事項であったM87 VLBA 86GHz観測の論文化が無事完了し、米国電波天文台のサイエンスハイライトとしてピックアップしてもらうなど、M87研究成果については当初の計画以上に充実した1年となった。また、多周波相対VLBIの新たなターゲットとしてNLS1を世界に先駆けて観測できたことも、本アプローチのさらなる発展に大きな弾みとなるだろう。更には研究協力者の中原聡美氏(総研大 博士課程)には平成26年度に引き続き重要天体であるM84、加えて平成27年度からNGC4261についても解析を行ってもらっており、幾つかの国内研究会で発表するなど順調に研究が進展している。ただそれでもなお、「天体数」という点では当初の予定よりもやや進展が遅れているのは事実である。以上の総合的な事情が「おおむね順調に進展している」と判断した理由である。
平成28年度は本研究課題最終年度ということもあり、現在取り組んでいる天体については論文出版に向けて作業を加速させていきたい。中原氏が担当しているM84, NGC4261については既に概ね結果がまとまり論文執筆が始まっており、平成28年度中の査読論文投稿・出版が見込まれる。新たに観測したNLS1については近年進展が目まぐるしい分野ゆえ、優先度を最優先レベルに引き上げ、解析から考察、そして平成28年度中の論文出版に向けて全力で取り組みたいと考えている。他の天体についても順次作業を進めていく。論文執筆と並行し、これらの研究成果を国内外の研究会で発表する。既に5月から6月にかけて台湾とスペインで開催される2つの国際研究会にて口頭講演が決まっており(うち1件は招待講演)、その後も秋季日本天文学会などで積極的に成果発信していく予定である。そして最終的には、解析が完了した全天体の結果をコンパイルし、統一的な観点から「ジェットの絞り込みの距離」及び「ジェット生成とBHスピンの関連」を議論し、磁場駆動モデルの妥当性を検証する総まとめ論文を執筆し、本研究課題完了を目指したいと考えている。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 備考 (2件)
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