研究課題/領域番号 |
26800113
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 多佳由 名古屋大学, 理学研究科, 学振特別研究員(SPD) (20637748)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 白色矮星 / 激変星 / 強磁場 / 降着柱 / 反射X線 / X線スペクトル / プラズマ / X線天文学 |
研究実績の概要 |
本年度は、私が昨年度に考案した、白色矮星からの反射X線を用いた白色矮星の質量半径測定を実現する、X線スペクトルモデルを構築した。この手法では、白色矮星近傍のプラズマから白色矮星に照射されたX線のうち、白色矮星の大気で散乱や吸収・再放射によって、白色矮星から再び放射された成分を用いる。この「反射成分」とプラズマからの直接成分の強度比は、プラズマから白色矮星を見たときの立体角に依存するため、これを用いることで、白色矮星の半径とプラズマの高さの関係を求めることが可能である。私は、白色矮星の磁場に捕らえられたプラズマ流のモデルによる、プラズマの温度分布やスペクトル分布を仮定した詳細な計算機実験によって反射X線スペクトルをモデル化した。今年度は昨年度までに取り込んでいた白色矮星質量に加えて、半径もフィットパラメータに取り込み、質量半径測定が可能なモデルをほぼ完成させた。 一方で昨年度までに完成させた、半径はフィットパラメータに含めないが、白色矮星連星のスペクトルモデルでは初めてプラズマからの直接成分と反射成分を統一的に扱ったモデルの適用も進めた。このモデルでは白色矮星からの鉄とニッケルの蛍光Kα,β線も含んでおり、この点も新しい。これらから、半径をフィットパラメータに含めていないモデルでも新しい知見が得られる。反射成分は白色矮星の自転軸と磁力線に捕らえられているプラズマ流の間の角度によっても変化し、実際に既存のデータからこれが測定でき始めている。 さらに、私のスペクトルモデルは強磁場白色矮星連星を想定して作成しているものであるが、これに近い状況が他の天体でも形成されている可能性があり、それらにも私のスペクトルモデルは有用である可能性が出てきた。実際に、その構成天体が議論の的になっている、γCas型天体に適用したところ、良く観測結果を再現している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではHitomi(ASTRO-H)衛星の7eV以下の高エネルギー分解能のX線観測データを想定していた。しかし、Hitomi衛星は軌道投入の約1ヶ月後に事故により喪失してしまったため、本研究で使用可能なデータは得られなかった。これによる影響は避けられず、既存の衛星のデータと当初の予定通りのプラズマからの直接成分のみによる白色矮星の質量半径測定法では、有意な観測的制限は得られない情勢だった。 しかし、当初の予定にはなかった、反射成分を用いた白色矮星の質量半径測定法の考案とこれを実現するスペクトルモデルの完成によって、有意な観測的制限が得られる見込みである。また、反射X線のモデル化のために予定にはなかった時間が必要になった一方で、白色矮星の質量半径測定以外にも成果が期待される。反射成分は、その出射方向によって通過する平均的な光学的厚さが異なるため、これによっても強度やスペクトルが変化する。この性質を用いることで、白色矮星の自転軸と磁力線に捕らえられているプラズマ流の間の角度が原理的に測定でき、観測に適用することで実際に測定ができ始めている。さらに反射成分のスペクトルモデルには、原子内に束縛された電子の運動によるドップラー効果も取り込んだ。この効果は束縛電子の運動量分布、つまり、波動関数そのものの情報を含んでいる。これを取り込んだことによって、蛍光鉄Kα線が散乱された成分などから、白色矮星表面の電子の状態を直接調査することが、Hitomi代替機などによる将来の精密X線分光を用いることで可能である。 以上から全体としては「おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までにほぼ完成した、プラズマからの直接成分と反射成分を統一的に扱い、白色矮星質量と半径をフィットパラメータに取り込んだモデルを、既存のデータに適用することで白色矮星の質量と半径を同時に測定する。この際、測定制度の向上と極力多くの白色矮星を対象とするため、既存の衛星データを総動員する。具体的には、Suzaku衛星やXMM-Newton衛星のの高統計なCCDデータや、数十eVのエネルギー分解能を持つXMM-Newton衛星やChandra衛星のgratingのデータ、さらに、NuSTAR衛星の硬X線撮像観測による低バックグラウンドの硬X線データなどを使用する。 これと同時に、反射X線のモデル化によって測定が可能になった、白色矮星の自転軸と磁極の傾きと、赤外線や可視光の観測による、連星系の軌道傾斜角や磁場に捕捉される直前の、降着円盤の内縁半径の情報を組み合わせ、白色矮星の磁場の測定を試みる。白色矮星磁場の強度が10の5-6乗 Gに当たる、中間ポーラーと呼ばれる白色矮星連星では、磁場の測定法が確立していない。この手法が有用であれば、この種族の白色矮星磁場の一般的な測定法になり得る。これらが実現できれば、白色矮星の質量と半径の関係の、磁場による影響まで探ることが可能になる。 さらに、これまでに製作したモデルを直接、もしくはその簡単な応用を他の天体にも適用する。例えば、その構成天体が議論の的になっているγCas型天体には、星の周りを取り巻いているプラズマが星を照らした場合の反射と、星の局所的に存在するプラズマによる反射を、本研究で製作した反射モデルを応用することで見積もり、これらが現実を再現できるか否かで、単独星モデルか連星系モデルのどちらが正しいかを決着できる可能性がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費などの調達方法の工夫により、当初の予定よりも少額で済んだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
来年度は論文を複数発表できる見込みであり、研究結果を発信する機会が増えそうなので、これらの費用に充てる。
|