最終年度は、初期宇宙に起源を持つ重力波に関する発展的な研究として、(1) Einstein-Weyl型重力理論における背景重力波のエネルギー密度スペクトルの導出および (2) 非等方的な空間膨張によって重力波の振幅が増幅する効果についての考察を行った。 前者においては、過去の成果を補強するために、Noether荷を考える方法でエネルギー密度の表式を見出し、それがハミルトニアンから求めたものと、一部の表面項を除いて一致することを確認した。これにより、Einstein-Weyl型重力理論における背景重力波の直接観測や、宇宙膨張への影響などを考えるための基礎的な知見が得られたと考えている。また、更に進めてその量子論的真空期待値も計算し、原始背景重力波の初期スペクトルを知ることも可能になった。 一方後者では、重力波強度の方向依存性から、インフレーション期以前の宇宙膨張を探ることを試みた。具体的には、当初の非等方的な膨張が等方化して指数関数的なインフレーション膨張へと繋がる背景時空(Kasner-de Sitter解)でのテンソル型重力摂動の時間発展を調べた。その結果、非等方膨張を経験した重力波の増幅率が波数ベクトルの向きに強く依存することを見出し、将来的に重力波強度の到来方向依存性を調べることで、初期宇宙での宇宙膨張の非等方性を検知ないし制限できることが分かった。このような重力波強度の異方性は、直接検出を待たずとも、宇宙マイクロ波背景放射の大スケールでの偏光スペクトルを通じて調べることもでき、既存の観測データを用いて制限することを試みている。
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