研究課題/領域番号 |
26800118
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡辺 寛子 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 助教 (70633527)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
液体シンチレータ(LS)を用いた反ニュートリノの検出は、低エネルギー領域にも感度を持つ反面、その到来方向を観測することは出来ない。到来方向を知る事で反ニュートリノ観測時の積極的なバックグラウンド事象の除去や、地球科学・天文学等の他分野への応用、また原子炉モニターといった産業への応用も期待でき、将来のニュートリノ研究においてブレークスルーとなる観測技術である。これまでに到来方向観測用LSであるリチウム含有LSの開発をほぼ終了し、到来方向の再構成の為には発光位置を精度良く観測する新たな観測方法の開発が必須である。本研究ではファイバーをリチウム含有LS中に張り巡らせることで発光位置の高精度観測を目指す。 本年度は(a)リチウム含有LSの性能向上と(b)使用するファイバーの素材選定を行った。(a)については、第一目標としている1m立方以下の小型検出器における要求性能はほぼ満たしているものの、長期安定性にまだ開発の余地があった。窒素によるパージを徹底して行うことで、発光量の長期安定性に改善が見られる事を確認し、約2年相当の加速試験の結果、約10%の光量減少におさえることが出来た。リチウムによる中性子捕獲事象のエネルギー観測を行い、その結果から期待されるフォトン数を見積もり、ファイバーへの要求性能を見積もった。(b)については、市販のファイバーはLSに対して薬品耐性が無く、LS中で使用するのは不可能であることから、本研究の要求性能を満たす素材を選定することが必須である。企業で近年開発が進められている、発光性能を有するフィルムを見出し、薬品耐性があることを確認した。また、同素材で1mm厚のプレートの作成を依頼し、カッティングすることでファイバー化する方法の試作を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
到来方向観測用LSであるリチウム含有LSの性能改善と、ファイバーの素材選定について成果を挙げることができた。また、特殊な構造になる本研究のファイバーアレイの試作機を作成し、構造的な実現可能性についても実機を用いてテストを行った。当初ファイバーは押し出しによる形成を予定していたが、1mm厚のプレートがあったことから、カッティングによる形成を行った。迅速に試作機の作成まで行うことが出来たが、カットすることによってできるエッジの影響やその処理方法といった予想していなかった問題もあり、来年度以降に取り組む必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
選定した素材はフィルム状では感度のある波長領域で90%以上の高透過率を有することが確認されている。今後はファイバー状にしたもののLS中での光透過率の測定を行い、要求性能を満たすかどうか確認する。得られた透過率測定結果を用いて、リチウムによる中性子捕獲事象のシミュレーションを行い、位置再構成精度を見積もる。また、データ読み出しとして使用を予定しているMPPC (Multi-Pixel Photon Counter) の性能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で購入を予定していたファイバーやその試作機が、同研究室で行われている同素材の他用途の実験で多量に購入しているため、無償で提供された。その為本年度の物品費はそれらの購入費用が余った形となった。本年度は素材の選定に注力したため、データ取得系等の購入は次年度以降に見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定していたファイバーの性能評価システムの構築の他、次年度使用額を利用して実機を想定したより多い読み出しチャンネルを有するデータ取得系の開発と性能評価を行う。ファイバーアレイの設置間隔は位置分解能に直結するので、より多く配置することで検出器の性能を向上させることができると予想されるが、その分データ読み出しのチャンネル数は増える。その可能性への準備の為に次年度使用額を利用したい。 その他、業者との打ち合わせや、研究成果の発表の為、旅費を使用したい。特に、本研究で開発している測定技術は他分野への応用が見込まれる為、物理に限らず地球科学等の他分野での成果発表も行っていく。
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