これまでの液体シンチレーター(LS)を用いた反ニュートリノの観測は、低いエネルギーに特化している反面、その到来方向を観測することは原理的に不可能である。到来方向観測情報は、反ニュートリノ観測において積極的なバックグラウンド事象の低減や、地球内放射性物質起源の地球ニュートリノ観測において発生場所を特定することで地殻とマントル成分を分離することができ、応用範囲の広い次世代観測技術の一つと言える。到来方向観測には、(1)中性子捕獲断面積の大きいLiを含有させたLS、(2) 発光位置を高精度で分離測定する観測器、の2点が開発要素として挙げられる。本研究ではすでに独自の方法で開発が完了している(1)のLi含有LS内の発光を高位置分解能で測定する方法として、耐薬品性のある波長変換ファイバーをLS中に張り巡らせ、集めた光をピクセル化された光検出器で観測することを考えた。 本研究の開始時には、耐薬品性のある素材について、ファイバー状に加工する方法を模索したが、必要な精度と長さを得ることができず、素材自体の使用を断念せざるをえなかった。次にあらかじめファイバー状になっている素材について耐薬品性を調べたが、1年程度の使用には耐えられてもそれ以上の長期間の使用ではだんだんと劣化してしまうことが判明した。本年度は、当初使用を予定していた素材の加工技術を再度見直し、複数の方法での加工を試した結果、最終的に1mmのプレートを2mmの太さにカットすることに成功した。そのファイバーをアクリルボックスに張り巡らせ、両端から発光を光検出素子であるMPPC (Multi Pixel Photon Counter)で読み出す機構を試作した。MPPCは常温で使用すると熱雑音が非常に高いので、-16度程度まで安定して冷却し、目標の雑音レベルまで低減する冷却機構を開発した。
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