研究課題/領域番号 |
26800119
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
衛藤 稔 山形大学, 理学部, 准教授 (50595361)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 位相的ソリトン / 分野横断型研究 / 国際情報交換 チェコ / 国際情報交換 英国 / 国際情報交換 カナダ / 超対称性 / 対称性の自発的破れ |
研究実績の概要 |
平成28年度に行った研究をその内容別に大別すると1)超対称ゲージ理論における複合ソリトンの数値解の構成法の確立、2)1+1次元のソリトンの新しいダイナミクスの発見、3)セミローカル渦の分極現象と安定化のメカニズムの解明、となる。1)は素粒子分野、2)は数理物理分野、3)は素粒子分野と宇宙分野に関連し、本研究の目的の一つであるエネルギースケールの異なる各分野間に内在する類似性を抽出するために位相的ソリトンに注目した。 1)では超対称性ゲージ理論におけるドメインウォールと渦ストリング及びその交点に現れるブージャムの複合ソリトンに関して、先行研究において未完成であった、実際に解を構成する最終段階であるモジュライパラメータを固定した後のマスター方程式と呼ばれる偏微分方程式の解の構成について、任意のモジュライに対して数値解を構成出来る単純で一般的な方法を確立した。これらの数値解を通じてドメインウォールの幾何学的な情報が、ブージャムを通じてドメインウォール内に流れ込む磁束の拡散の様子と密接に関係していることを明らかにした。 2)では1+1次元の真空と偽真空を繋ぐソリトンのダイナミクスの詳細を数値的に調べ、ソリトンの融合や消滅など興味深い運動を起こすことを発見した。 3)II型セミローカルボーテックスは不安定であることが知られているが、U(1)ゲージ対称性を破るヒッグスポテンシャルとして一般的なものを考えると、セミローカルボーテックスの分極が生じ、その結果ボーテックスが安定化されるという新しい安定化の機構を発見した。また分極のメカニズムについて定性的な考察だけでなく数値計算を用いて定量的な評価を行い、模型のパラメータと分極度の関係性を明らかにした。また この分極による安定化を電弱理論に応用する可能性について指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「対称性・対称性の自発的破れ・位相的ソリトン」を主軸として素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理の各分野を自然界のエネルギー階層性を超えた新しい視点から理解すること、である。位相的ソリトンの生成は系の対称性とその自発的破れに深く関係するが、このことはエネルギースケールには寄らない普遍的な現象であるため、素粒子-原子核-物性-宇宙の分野の垣根を超えて横断的な理解が得られる。この目的を達成するために、これまでの研究では離散的対称性が破れることで生じるドメインウォールとU(1)対称性が破れるときに生成されるボーテックスに着目し、平成26年度は量子色力学のカラー閉じ込め問題と関係するnon-Abelian超伝導体中の磁気単極子・non-Abelianゲージ理論のダイオニックnon-Abelian渦・原子核や物性系と関係するスカーミオンについて、平成27年度は余剰次元模型や超弦理論のブレーン上の物理と関連するドメインウォールの有効理論・冷却原子気体によるBose-Einstein凝縮中に発生する量子渦の新しいダイナミクス・ゲージ理論の非摂動効果と密接に関係したインスタントンについて、平成28年度はゲージ理論に存在する複合ソリトン解の構成・1+1次元ソリトンのダイナミクス・セミローカル渦の分極と安定化について、研究を行い成果を上げてきた。研究期間の3/4を終えた現時点においてこれまでの成果を振り返れば、研究の目的に記載してあるエネルギースケールの異なる各分野:素粒子・原子核・物性・宇宙・数理物理のそれぞれについて位相的ソリトンを主軸に研究を進めてきている。これまでは各分野のソリトンについて各論的にその特徴を捉えるというスタンスで研究を進めてきたので、最終年度においてこれまでの成果の中から類似性を抽出し合一することでエネルギー階層性を超えて自然現象を理解する準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間に得られた研究成果を振り返ることで、エネルギー階層性を超えて素粒子・原子核・物性・宇宙という異分野を横断的に繋ぐ共通項が見えてきた。それは位相的ソリトンの「分数」量子化という現象である。研究の最終年度である平成29年度においては、この分数量子化された位相的ソリトンにより着目し、本研究の目的を達成を目指す。まず量子色力学におけるクォークの閉じ込め問題について、量子色力学とは全く異なる冷却原子気体におけるBose-Einstein凝縮体を利用して閉じ込め現象の本質を理解することを試みる。冷却原子気体によるBose-Einstein凝縮体は実験室で構成可能なだけでなく、Gross-Pitaevskii理論という理論的にも扱いやすい対象であり、これを通じて分数量子化された渦の閉じ込め現象を調べることでカラーの閉じ込め問題に迫る。また分数量子渦は物質が超高密度状態に置かれる中性子星の核付近などに現れるカラー超伝導相にも現れるので、超高密度QCDの新しいトポロジカルな現象を発見し中性子星の特徴を決めるような物理量がないか調べる。さらに平成28年度に行ったセミローカル渦の分極による安定化も分数量子化と密接に関係しているが、更に渦数を増やしたときや模型のフレーバー数を増やしたときにどのような渦分子が構成されるかを明らかにし、またそれらのダイナミクスについて数値解析を交えて明らかにする。セミローカル渦は電弱理論における渦ストリングとも関係しているので、電弱ストリング(コズミックストリング)の安定化の可能性についても合わせて調べる。また、余剰次元模型の構成として厚みをもつブレーンとしてドメインウォールを考える理論があるが、大統一理論とブレーンワールド・シナリオを融合することを目指す。そして本研究の結果をまとめ総括し、今後のさらなる発展の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に応じて当初の計画を若干変更したため差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に計画している旅費に加える。
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