本研究の目的は、「対称性・対称性の自発的破れ・位相的ソリトン」を主軸として、素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理を自然界のエネルギー階層性を超えた新しい視点から理解することである。H29年度の成果は以下の通り。まず、冷却原子気体の多成分ボーズ・アインシュタイン凝縮系(BEC)の有効理論であるGross-Pitaevskii方程式を数値的に解き、多成分場の理論に特有な半整数量子渦の閉じ込めに関わるダイナミクスを詳細に調べた。一般に多成分BEC系の渦度はある有理数で量子化されるが、多成分場の相対位相にポテンシャルが存在すると、渦同士がキンクによって閉じ込められる。これとQCDのカラーの閉じ込めの間に類似性があるのは明らかだが、2+1次元での量子渦と基本粒子の間の双対性を考えれば、単なる類似以上に閉じ込め現象の本質に迫れると期待できる。本研究では静的で安定な渦解に関する研究を大きく超えて、分子長がずっと長い不安定分子が渦・反渦を対生成して多数のハドロン的渦に分裂すること示すことで、多成分BEC系がダイナミカルナレベルでもQCDに酷似していることを明らかにした。この結果は冷却原子気体とQCDという無関係に見える2系が、位相的ソリトンという新視点により、密接に関係していることを示している。もう一つの成果として、位相的ソリトンによるブレーンワールド模型のダイナミカルな構成に成功した。特にこれまで困難であったブレーン上へのゲージ場の局在を、ゲージ場の運動項をスカラー場に依存させることで克服し、それを多重ソリトン系に発展させるとブレーンワールド模型が自然にSU(5)大統一理論(GUT)に導かれることを示した。更にGUTゲージ群の破れがソリトンのダイナミクスによって決定されるということをを明らかにし、標準模型を超える物理においてソリトンが非常に重要な役割を担っていることを明らかにした。
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