研究課題/領域番号 |
26800123
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濱口 幸一 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80431899)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / LHC / 超対称性理論 |
研究実績の概要 |
・アイソスピンを破る暗黒物質シナリオについて、暗黒物質とクォークとの相互作用がカラーを持った粒子によって媒介されている模型を調べた。いくつかの暗黒物質直接探索実験によって、軽い暗黒物質の発見可能性を示唆するイベントが報告されている。一方、この領域は他の直接探索実験によって厳しく制限されている。この一見矛盾した状況を解決するシナリオとして、暗黒物質の相互作用がアイソスピン対称性を破っている可能性が指摘されている。本研究では暗黒物質とクォークとの相互作用がカラーを持った粒子によって媒介されている模型を解析し、カラーを持った媒介粒子の質量がO(1)TeV程度であること、暗黒物質が初期宇宙で熱的に生成されたとすると残存量が多すぎる(観測されている暗黒物質密度を超えてしまう)ことを示した。O(1)TeVのカラーを持った粒子は14TeVのLHCで発見可能である。さらにフレーバーやCPの破れからの制限を解析し、模型の結合定数の間に厳しいtuningが必要であることを明らかにした。 ・超対称性理論においてグラビティーノが暗黒物質となるゲージ伝達模型を再考察した。ヒッグス粒子の質量126GeVをインプットとし、さらにCPの保存を要求する(境界条件としてヒッグスのB-termをゼロとする)minimalな模型を考えた。その結果、広いパラメータ領域で荷電粒子スタウが長寿命となり、さらにその質量が1TeVであることが分かった。1TeVの長寿命荷電粒子スタウは将来のLHC実験で検証出来るため、これは重要な結論である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大きな目的は、暗黒物質を含む素粒子模型とその初期宇宙論およびコライダー現象論を突破口として、標準模型を超える物理を探索する事である。 現在まで順調に研究を進めており、査読付論文発表し、国内外の研究会で成果発表を行って いる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から継続して行っている研究を推進する。以下にそのうちの2つの内容を具体的に記す。 【1】暗黒物質の残存量とミューオン異常磁気能率のずれを同時に説明出来る超対称性模型の研究:超対称性模型において、ニュートラリーノ暗黒物質の初期宇宙での熱的残存量が現在の観測値と一致する典型的なパラメータ領域では、カラーを持たない超対称性粒子がO(100)GeVの質量を持っている。このようなパラメータ領域においてミューオン異常磁気能率の実験値と標準模型予言値のずれを説明することが出来る。ニュートラリーノ暗黒物質の熱的残存量とミューオン異常磁気能率のずれを同時に説明出来て、かつ7-8TeVのLHC実験の制限を逃れているパラメータ領域を同定し、13-14TeVのLHC実験での検証可能性を調べる。 【2】重い超対称性模型における、Q-ball崩壊によるウィーノ暗黒物質の研究:126GeVという比較的大きなヒッグス質量とLHCでの超対称性粒子の未発見を受けて、ヒッグス粒子以外の全てのスカラー粒子が非常に重い(~10TeV以上)ような超対称性模型が注目を集めている。そのような模型では通常ウィーノが暗黒物質になる。一方、宇宙の物質・反物質の非対称性の起源を説明する機構の1つとしてAffleck-Dine機構(AD機構)がある。AD機構では典型的にQ-ballと呼ばれるソリトンが生成され、その崩壊により暗黒物質の非熱的生成が起こる。このシナリオ(Q-ballの崩壊によるウィーノ暗黒物質)について、最近の発展を含めて再検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費や物品費を概算により申請していたが、想定していたより若干小額で済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は大部分を旅費(ドイツ出張)に使用する予定である。DESYに滞在し、暗黒物質の理論的研究を推進する。
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