研究課題
本研究の目的は、宇宙誕生初期にあったとされる急激な加速膨張(インフレーション)を宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測によって実証するために必要な偏光角度較正の高精度化・系統誤差の低減を実現するための較正手法を確立することである。インフレーションは原始重力波の存在を予言し、その痕跡をCMBの偏光成分のうちのBモードと呼ばれるパターンとして見つけることが、その決定的な検証になる。しかしながら、装置の偏光角度の理解を誤ると、桁違いに大きい別起源の信号を誤ってBモードと認識してしまうことになるため、偏光角度較正の高精度化が必須となる。そこで本研究では、CMB実験で偏光較正に用いられる天体、かに星雲(Tau A)の偏光放射をより深く理解することで、来るべき超高感度CMB実験の高精度化に繋げることを目指した。平成28年度は以下の二つの研究を推進することでこの目的の達成に挑んだ。一つ目の研究として、南米チリ・アタカマ砂漠で観測を進めているPOLARBEAR実験で取得したTau Aの偏光データを解析することにより、Tau Aの偏光放射を評価した。その結果はPOLARBEAR実験のBモード偏光測定の論文の一部として発表された。0.2 度の統計精度で Tau A の偏光角度を測定することができたが、一方で系統誤差が0.8 度程度と見積もられ、今後この系統誤差を低減することが次なる課題となる。二つ目はTau A観測の多色化に向けた研究である。上述の結果は150GHz帯のみのもので、前景放射除去のためにも多周波数帯でのデータが重要である。そのために、Tau A観測を多色化するためのアップグレード実験の研究も行った。特に本研究では当初の計画に沿って、新たなデータ収集系の開発試験を進めた。試験は順調に進行し、来年度には複数周波数における、より精度の高いTau A観測が実現できる見込みである。
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