平成28年度は、J-PARCのニュートリノビームラインで原子核乾板を使った低エネルギーニュートリノ反応の実験(T60)のテスト実験の結果を受けて、長期間の観測における検出器の性能維持やより高精度の運動量測定を可能にする原子核乾板の開発に重点を置いた。 長期観測については、原子核乾板に記録された荷電粒子の軌跡(=銀の点列)が退行することにより、データの読み取り時に非検出となる確率が高まるという現象が起こる。これを軽減するために、同様の研究課題を持つ実験グループと共に開発中の原子核乾検出器を用いて、常温で2から3ヶ月における宇宙線の観測を行った。現在、データ解析中であり、データの読み取りや処理におけるチューニングニングが必要である事が分かった。 高精度の運動量測定を可能にする原子核乾板検出器については、原子核乳剤を塗布する基板の選定(従来より厚型のもの)を行い、原子核乾板を名古屋大学で作製した。この原子核乾板を積層したものをCERN(欧州原子核研究機構)に持参し、ビーム照射を行ってきた。現地では、照射だけでなく原子核乾板の現像も行った。名古屋大学では、データの読み取りを行い、従来の基板を使用した原子核乾板検出器と比較した、結果、角度が大きくなるにつれて角度精度の向上が顕著に現れ、検出器の系統誤差の軽減によってより高エネルギーの粒子の運動量が測定可能になることが期待される。 研究期間全体としては、 原子核乾板検出器を用いたニュートリノ実験(sub-GeVからmulti-GeVにおける低エネルギーニュートリノ反応の研究)をJ-PARCで実施するために、解析ツールの開発や新たな原子核乾板検出器の開発を行って来た。高速の読み取り装置を用いた検出器全体のデータを用いたニュートリノ反応の検出手法や、新型の検出器の開発結果を、現在進行中のニュートリノ実験に生かして行きたい。
|