研究課題
本研究では、数百nmから数十nmという極めて高い位置分解能を持つ超冷中性子検出器を開発してきた。目的は、地球重力場中での量子化状態にある超冷中性子の位置分布の精密測定である。これまで、LiNO3を微粒子原子核乳剤中に添加した検出器と、ガラス又はSi板上にスパッターした10B薄膜上に微粒子原子核乳剤を塗布した検出器を試作してきた。LiNO3添加型では、6Liが中性子を吸収し、α粒子と三重水素が発生し、それらの飛跡が乳剤層中に検出される。10B薄膜型では、10Bが中性子を吸収し、α粒子と7Liが発生し、いずれかが10B薄膜から出発する飛跡として検出される。これらを試作し、京大原子炉、J-PARC・MLF・BL05、京大KUANSにおいて熱・冷中性子の照射実験を行った。2014年、乳剤層中に6Liを1.2×10-3mol/cm3含むLiNO3添加型検出器を試作し、熱・冷中性子を照射したところ、期待通りの反応数を検出し、飛跡の銀粒子の線密度の実測および飛程のストラグリングから、吸収点の分解能が約500nmと判明した。検出効率は、5m/sの超冷中性子に換算して8.6%である。10B薄膜型では、吸収点の分解能は10B膜の厚みにより決まる。10nmの厚みの試料を試作しており、原理的に数10nmの分解能を持つ。2014年の試作で10B薄膜の純度と安定性の問題により、低い検出効率を得たが、以来改良を行ってきた。10B膜の不安定性については2016年の試験により、膜中の10Bの乳剤層中への拡散が原因であると解明した。2015年より10B膜の安定化のため、10B膜上にバリアーとなる薄膜の形成を試みて来た。NiC膜のバリアー効果を確認することができ、想定に近い検出効率を得た。しかし、NiC膜は、乳剤中に化学的なノイズを作り易く、また、乳剤層が剥がれやすいという性質があり、更なる改良が必要である。
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日本写真学会誌
巻: 78 (4) ページ: 239-242