研究課題/領域番号 |
26800133
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
祖谷 元 国立天文台, 理論研究部, 特任助教 (70386720)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙物理 / 中性子星 / 状態方程式 |
研究実績の概要 |
太陽質量程度の低質量中性子星における質量と半径の同時観測はなされていない。これに対して、スライマノフ等は、X線バースター(4U 1724-30)における減光過程をうまく説明するように中心天体の質量と半径に強い制限を与えた。これまでも中性子星の半径に関する観測的な制限は幾つか行われているが、X線の減光過程を考慮した解析はスライマノフ等の結果だけである。 一方で、低質量中性子星内部は一般的に星全体の密度が低いと考えられる。そのため、低質量中性子星を記述するには原子核飽和パラメータが重要になる。我々は低質量中性子星を表すのに都合の良い原子核飽和パラメータの組み合わせを見つけだし、質量や半径をこのパラメータの関数として表すことに成功した。 そこで、X線バースターでの観測結果を用いて、我々は原子核飽和パラメータへの制限を行った。得られた制限は、以前我々が示した軟ガンマ線リピーターにおける準周期的振動数から得られる制限と矛盾しない。 この他、我々は中性子星に関わる様々な研究を推進している。中性子星の高密度領域では、ハドロン物質からクォーク物質への相転移の可能性が理論的に示唆されている。このような中性子星の中心部でクォーク物質が存在するようなハイブリッド星における磁場の効果を調べた。その結果、これまで質量の大きいハイブリッド星の構築は困難であったが、強磁場中でのランダウ準位の寄与を考慮することで非常に重いハイブリッド星も構築可能であることを示した。さらに、修正重力におけるコンパクト天体の振る舞いも調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標準的な中性子星の質量は太陽質量の1.4倍程度であり、太陽質量程度の中性子星を生成するシナリオは理解されていない。一方、スライマノフ等が観測的に与えた制限は、比較的大きい半径であり、かつ低質量領域も含む領域を示唆している。この結果は我々が導いた質量公式を用いるのに都合が良かった。このため、中性子星の観測から原子核の飽和パラメータの制限を直接的にできたことは画期的であると言える。中性子星の半径に対する制限は理論的な不定性やモデル依存性が残るが、今後の進展に期待ができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、軟ガンマ線リピーターにて巨大フレア現象が3例観測されている。このうち2例では、減光過程において複数の準周期的振動が発見されている。軟ガンマ線リピーターは、強磁場中性子星の候補天体であるため、発見された準周期的振動は中心天体である中性子星の振動と密接に関連すると考えられる。この発見を受け、見つかった準周期的振動を理論的に説明する試みがなされている一方、観測された振動数を用いて原子核飽和パラメータへの制限が行われている。実際、準周期的振動が中性子星の表面付近のクラスト領域で起こったと考えると、原子核飽和パラメータと振動数は密接に関わると期待される。 最近さらに、巨大フレア現象を起こした軟ガンマ線リピーターにおいて新たな準周期的振動が見つかった。また、別の軟ガンマ線リピーターでも同様の振動が見つかっている。そこで、クラスト領域での振動解析を通して、この新たな観測事実も取り入れた原子核飽和パラメータへの制限を行う。 星表面から静水平衡の式を解くことでクラスト領域を構築し、そこでの固有振動数を線形化したアインシュタイン方程式に適切な境界条件を課すことで数値的に求める。クラストでの振動は、ズレ弾性率で特徴付けられるため、最近提唱された電子遮蔽の効果を含むものを用いる。星の形状や原子核飽和パラメータを系統的に変えながらクラストでの固有振動数を求め、得られた固有振動数と観測された振動数を比較することで、クラスト領域の状態方程式に関連する原子核飽和パラメータへの制限を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度途中に異動があり、計画していた海外出張に行くことができなかったことが原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は国際会議も多く、すでに複数の会議から招待を受けている。このような国際会議への参加費に当てる予定である。
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