本研究の目的は、ガドリニウム(Gd)の熱中性子捕獲反応から放出されるガンマ線の総数とそれぞれのエネルギー、ガンマ線間の角相関を測定することである。近年、ガドリニウムの熱中性子捕獲反応はニュートリノ実験を始めとした素粒子分野で広く応用がなされている。また、中性子による癌医療にも用いられている。ガドリニウムからの中性子捕獲ガンマ線の理解は、これらの応用分野における基礎的な量の理解、技術の向上を生むと期待している。 平成27年度の研究として、「平成26年度に得たビーム実験データの解析」、「新たなガンマ線放出モデルの構築」を行った。具体的な平成27年度の研究実績としては以下の通りである。 1. 大強度陽子加速器施設J-PARC/MLFのANNRI検出器において取得した、Gdの熱中性子ビーム実験のデータ解析を行った。解析にはANNRI検出器の計算機シミュレーションを併用した。これは平成26年度に我々が開発したものである。我々はまず較正線源データの解析により、計算機シミュレーションが±15%でANNRI検出器を再現していることを確認した。この計算シミュレーションはANNRIを用いた他の実験にも提供することを予定している。次項のガンマ線放出モデルの構築は、実データと計算機シミュレーションを比較することで行った。 2. 昨年度の研究により、既存のガドリニウム熱中性子捕獲ガンマ線のモデルは不十分であることが確認できた。この状況を受け、今年度はガドリニウムの熱中性子捕獲ガンマ線の放出の為の新しい計算モデルの構築を行った。我々の新しいモデルは現時点で±30%で実験データを再現しており、全エネルギー域において既存のモデルより再現性が良い。このモデルについては、さらなる精度の向上を行った上で論文としての公表を予定している。
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