研究課題/領域番号 |
26800140
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
織田 勧 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10613515)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒッグス粒子 / 素粒子標準模型を超える新物理 / 国際研究者交流 / LHC / CERN |
研究実績の概要 |
スイスの欧州原子核機構(CERN)のLHC加速器のアトラス検出器を用いて、平成24年7月に発見されたヒッグス粒子が、Z粒子2つを経て、4つのレプトン(電子およびミューオン)に崩壊するチャンネルで、その質量、生成断面積、崩壊角度分布を測定することで、ヒッグス粒子と他の粒子との結合およびヒッグス粒子のCP混合状態を探索し、素粒子物理学の標準模型を超える新物理を探索することが本研究の目的である。 平成24年までに取得したデータを用いたヒッグス粒子の質量、結合、微分生成断面積の測定の最終結果を論文として出版した。スピンとCPの測定の論文は準備を進めた。これらの成果を国内で行われた研究会で発表した。 平成27年度から始まる重心エネルギー13TeVのランで迅速に解析を進めるために、興味のある事象、オブジェクト、変数のみを解析用ファイルに残すフレームワークの構築に携わった。また、データやシミュレーションの処理の際に用いる検出器の状態のデータベースの管理にも携わった。 ここ数年の理論の進展により、実験データを有効場理論により解釈し、有効ラグランジアンの結合定数に対して制限を付けることで、新物理を探索することが包括的で強力であることがはっきりしてきた。この手法を13TeVでのデータに適用するため、準備を始めた。 また、平成47年頃までに積分ルミノシティで3000fb-1のデータを取得するHigh-Luminosity LHC (HL-LHC)という計画がある。それが実現できれば、新物理探索の領域を大きく広げられると考えられる。実現の鍵となる内部飛跡検出器のシミュレーションの開発に携わった。今後はそれを用いて新物理の探索能力について調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終的な結果は最終の平成29年度に出す予定であり、平成26年度はそのための準備の期間であった。平成24年までの8TeVでの結果をまとめ、論文にする過程で、今後に生かすことのできる経験、知見を多く得た。 当初の予定では事象生成器を用いた研究を行う予定であったが、その代わりに迅速に解析するフレームワークの構築やデータベースの管理を行った。これらは実験開始前までに準備を完了させなければいけない優先度の高いものであった。平成27年度に取得できるデータは積分ルミノシティで10fb-1程度であり、ヒッグス粒子の生成数に関しては、まだ平成24年までのデータと同等程度であるので、事象生成器を用いた研究の優先度は低いため、平成27年度以降に延期した。 HL-LHCの研究は当初の予定にはなかったが、ヒッグス粒子を用いた新物理の探索には極めて重要であることがわかったので、開始した。 全体として、研究の目的を達成するために、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は13TeVでデータを取得する。 ヒッグス粒子の質量は約125GeVであり、崩壊してできるZ粒子のうち1つは質量が30GeV程度でoff-shellの状態にある。これまで解析に用いていたのは横運動量が6GeV以上のミューオンと7GeV以上の電子であり、off-shelのZ粒子を効率良く捉えるためには、閾値をさげる必要がある。現状では低い横運動量の電子の検出効率と電子のエネルギースケールの系統誤差が大きい。レプトンの系統誤差を理解し、低減するのに威力を発揮するのが、質量幅の狭いZ粒子やJ/Ψ粒子の崩壊によるレプトン対である。一方のレプトンに厳しいカットを要求することで、純度を高くした他方のレプトンを用いて、レプトンに関する性能を評価するTag-and-Probe法を用いる。平成27年中に1000万近いZ粒子の崩壊事象が得られるので、レプトンの検出パフォーマンス(検出効率、トリガー効率、運動量スケール、運動量分解能)を評価する。この際に検出器の状態を管理するデータベースを重要であり、その責任者として活動を行う。 また、事象生成器を用いてシミュレーションを行い、系統誤差を評価し、主要な系統誤差の低減を図る。さらに、24時間3交代制のデータ取得シフトも担当する。 得られた成果を国際会議や国内の学会で積極的に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
事象生成器を用いた研究を平成27年度以降に延期したので、そのための高性能計算機の購入や実験補助の学生アルバイトが発生しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は重心エネルギー13 TeVでの運転が始まるため、CERNに長期間滞在する必要がある。そのため外国旅費が多く必要であるので、次年度使用額の一部は外国旅費として使用する。残りは計算機の購入にあてる。実験補助の学生アルバイトについては研究の進展に応じて、必要ならば、依頼し、謝金を支出する。
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