銀河系内の若い超新星残骸は観測から非常に高解像度のX線イメージが得られている。特に Cassiopeia A は、観測から示唆される元素の分布が球対称の爆発では全く説明がつかない。本研究の目的は超新星残骸の観測と理論との比較から、超新星残骸の元となった超新星爆発や元素合成への手掛かりを得ることである。そこで、観測と比較可能な理論モデルを構築することを目的として、超新星爆発の数年後から数百年後の間の超新星残骸進化の空間3次元の流体数値実験を行うため、重要な物理過程を組み込んだ数値計算コードの開発を行った。超新星残骸では以下の物理過程が重要である。一つは観測される元素からのX線放射は各元素への電子の結合によるため、X線放射の評価のためには電子温度を正しく見積もる必要がある。超新星残骸の衝撃波によって加熱された領域では電子と他のイオンの温度は異なり、両者はクーロン衝突によって徐々に緩和される。また、イオンの電離度が放射に重要である。数値計算コードに緩和過程と非平衡電離計算を組み込んだ。今後は本研究課題の以前に取り組んでいた非球対称な超新星爆発と元素合成計算を初期条件として観測されている元素分布の謎の解明に取り組む。他方、超新星残骸の観測から超新星残骸においてこれまで考えられてきたよりも強い磁場の増幅が示唆されている。その増幅機構の一つとして超新星残骸で起こる流体不安定性による流体の乱流的振る舞いが流体に凍結した磁場を増幅する可能性があり、それを調べるための高解像度の3次元の磁気流体計算コードを開発した。数値的にマクスウェル方程式の一つである磁場に関するガウスの法則を満たすことに問題があったが、ベクトルポテンシャルを導入することによりこの問題を回避した。今後様々な条件で超新星残骸における磁場の増幅の可能性を系統的に調べる。
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