本研究課題の目的は、ハイパー核研究の新たな段階の一つとして注目されているsd殻領域のΛハイパー核について、原子核殻模型により得られる波動関数を用いて、生成断面積、電磁遷移強度、崩壊幅を実験に先駆けて予測することである。そして、sd殻領域のハイパー核のエネルギーレベルの構造を明らかにし、sd殻領域におけるΛN有効相互作用の各項の強さを決定することである。 平成28年度は、sd殻領域の入り口にあたるハイパー核Λ19Fに対して、平成26年度、27年度に得られたエネルギーレベル構造、生成断面積、電磁遷移強度の理論計算結果をもとに、生成実験で得られるハイパー核の各状態の生成率を算出した。平成27年度にJPARCで行われたΛ19Fの生成実験の解析結果も報告され始め、本研究の理論計算結果との比較により、いくつかの状態のエネルギー準位について有力な情報を得ることに成功した。 研究期間全体を通して、sd殻領域のハイパー核の生成・構造・電磁遷移の理論計算コードを構築し、その適用例としてΛ19Fに対して実験結果と比較するのに十分な理論計算による予測を行うことができた。得られたエネルギーレベル構造は、p殻領域のハイパー核で報告されている構造と同じ傾向であることが示された。sd殻領域におけるΛN有効相互作用の各項の強さを決定するには、JPARC実験とのより詳細な比較と追加の理論計算が必要である。 また、当初の予定にはなかったが、国内外の実験の状況を踏まえ、平成27年度の後半よりp殻領域の12C、10Bを標的としたハイパー核生成に対して、従来の模型を拡張した理論により生成断面積の計算を行った。拡張した模型を用いた取り組みによって、従来の模型では説明ができなかった実験結果を再現できる可能性を示すことができた。
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