高輝度ハドロンコライダーに用いる飛跡検出器読み出しおよび飛跡トリガーの開発に関して以下の3点に関して研究実績をあげた。 1)高速読み出しASICに対応するDAQシステムの開発:ATLAS実験では2026年より開始される高輝度LHCに向けて半導体ピクセル検出器の開発を行っている。高輝度運転下での飛跡占有率の増加や多チャンネル化によって高速読み出しASICの採用が必要不可欠である。新型ASICは65nm CMOSプロセスを用いた最大5Gbpsの読み出し速度(もしくは1.28Gbps線を4本)が可能であり、対応する読み出し基板、DAQシステムの開発が必要であった。27年度から引き続き、汎用のFPGAボードを用いて高周波信号の伝送試験を実施した。また、フレキシブル基板を用いた読み出し回路の設計も行った。インピーダンス整合の取れた基板の設計を進めた。コネクター部等の影響で5Gbpsの伝送は難しかったが、1.28Gbps線の伝送は低エラーレートでの実装が可能となった。 2)開発したトリガーシステムを用いたビーム試験:1)で開発中であったトリガーシステムおよびフレキシブル基板を米国フェルミ国立加速器研究所の120GeV陽子ビームを用いてビーム試験を行った。ビーム頻度は数kHz程度であったが、トリガーロジックの確認、ノイズの評価、検出器効率、位置分解能の測定まで基礎的な性能試験を行うことができた。 3)将来のハドロン加速器実験へ向けた物理ケースの考察:本課題の研究目的の一つに高輝度LHCやその後計画されている高エネルギーLHC計画や将来円形加速器計画(FCC)へ向けた物理ケースの研究があった。最も重要であると考えるヒッグス粒子の自己結合に関する研究を素粒子理論の研究者とともに遂行し、異常自己結合が観測された際の新物理探索に関する論文を投稿し掲載された。
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