超伝導層と絶縁層からなる多層膜構造を加速空洞内面に導入する事で、バルクのニオブ空洞を大きく上回る加速電場とQ値が実現可能であると考えられている。研究代表者らは、超伝導多層膜構造で到達できる最大加速電場すなわち過熱磁場の理論的研究を行い、材料の組み合わせと最適膜厚を示した。この計算では、理想的に平坦な超伝導体と絶縁体からなる多層膜に平面波が垂直入射する状況が仮定されているが、現実の試料の膜厚は一様でなく表面に凹凸が存在し、更には捕獲磁束の存在も無視できない。理論と実験データの精密な比較には、これらの効果を入れて理論を拡張するか、試料の質を理論の仮定に近づける必要がある。平成28年度は引き続き理論の拡張と試料の評価と質の向上に取り組んだ。(1)超伝導空洞冷却時に捕獲される環境磁場は、空洞表面の損失・発熱に寄与し、最大加速電場とQ値を下げる方向に働くため、多層膜構造導入による性能向上の原理実証に臨む際、必ず立ちはだかる問題である。研究代表者は最近発見された「超伝導空洞を温度勾配下で冷却することで捕獲磁束を低減できる」という現象を理論的に考察し、実験結果を上手く説明するモデルを提案するとともに、実際に空洞を使って実験を行い、現象の理解を大幅に深めることに成功した。(2)転移温度測定装置を立ち上げ様々な試料の転移温度の測定と成膜条件へのフィードバックを通じ、試料の質の大幅な向上に成功した。(3)研究代表者は数年前に多層膜に絶縁層が無い場合でも渦糸の侵入を食い止める効果がある事を指摘していたが、これを更に詳細に解析し、絶縁層が無い場合の最適膜厚、各種実験で観察し得る現象を整理した。
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