研究課題
本年度は、「ひとみ」衛星の打ち上げに向けて、筑波および種子島で行われた最終的な衛星試験に参加し、軟ガンマ線検出器(SGD)の動作検証および性能評価を、チームの中心メンバーとして行った。一方で打ち上げ後の観測に向けてのキャリブレーションデータの構築や、偏光測定のためのSpring-8でのビーム試験にも参加し、検出器とデータプロセッシングシステムの開発に大きく貢献した。衛星打ち上げ後は、3月半ばから内之浦にてSGDの立ち上げを行い、良質なデータが問題なく取得できることを確認した。一方で、Fermi衛星のガンマ線データを用いた、分子雲などの星形成領域の宇宙線・星間ガスの研究も並行して進めた。名古屋大学の電波天文グループと緊密な連携を組み、最新の電波および赤外線の観測データとガンマ線データとの比較から、ガスの柱密度を正しくモデル化し、太陽系近傍分子雲領域における正確な宇宙線密度とスペクトルの測定に成功した。
3: やや遅れている
3月末の衛星トラブル以降、「ひとみ」衛星からのデータは取得できていない。またそれまでに私がターゲットとするような天体の観測は行っておらず、当初目標としていた星形成領域からの核ガンマ線の検出や、硬X線帯域も含めたマルチバンド帯域の研究は困難となった。その一方で、Fermi衛星のデータを用いたGeVガンマ線帯域の分子雲領域の解析は、飛躍的に進んだ。ガンマ線観測から宇宙線密度を測定するためには、正確なガスの柱密度を知る必要がある。名古屋大学の電波天文グループと連携をとり、少なくともカメレオン座分子雲領域については、Planck衛星のダストの測定量に対して、その(1/1.4)乗に比例するモデルが、最も的確にガンマ線分布を再現することを見出した。
カメレオン座領域に対して、ダストの光学的深さの(1/1.4)乗に比例するモデルが、最もガンマ線分布を再現することについて、現在論文執筆中である。一方で他の分子雲領域についても解析を始め、(1/1.2)-(1/1.4)乗が最もガンマ線分布を再現できそうなことが分かってきた。ガスの柱密度を求めることは、天文学において最も基礎的で最も困難な課題であるが、今後は、ガンマ線とのダストの比較によって得られるこのモデルが、最も的確なガスのトレーサーとなりうるか、可能性を探っていく。また、その結果得られる宇宙線密度やスペクトルの分子雲領域による違い、あるいは一つの分子雲内におけるバリーエションや、それとガスの状態や磁場の分布などとの関連性を探っていく。一方で次世代大型チェレンコフ望遠鏡(CTA)のワーキンググループに参加し、TeV帯域ガンマ線の観測結果もベースとした、分子雲や星形成領域における、宇宙線ならびに星間物質の研究を継続していく。
今年度は軟ガンマ線検出器の動作検証も含めたASTRO-H衛星全体の試験や運用に参加することが多く、日程的に学会などの参加が制限されたため。
2016年4月から名古屋大学に異動し、これからはデータ解析を中心としたサイエンス中心の研究活動となる。迅速にデータ解析を行っていくためのハードウェアや、国内学会参加費用に利用することを考えている。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A
巻: 806 ページ: 5-13
10.1016/j.nima.2015.09.081