研究課題/領域番号 |
26800162
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鍜治 怜奈 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40640751)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子ナノ構造 / 正孔スピン / g因子 / スピン初期化技術 |
研究実績の概要 |
半導体ナノ構造に局在する正孔スピンは,電子スピンに比べて結晶を構成する原子核スピンとの磁気的相互作用 (超微細相互作用) が弱く,長いコヒーレンス時間が見込まれることから,我々は正孔を用いたスピンの任意操作を目指している.これまでに,正孔スピンコヒーレンスの上限を決める超微細相互作用の強さと,スピン操作の鍵となる正孔g因子が重い正孔-軽い正孔間の状態混合 (価電子帯混合)と密接に関連することを明らかにしてきた.
H26年度は,次の項目に着手し,成果を得た. 1) In(Ga)As量子リングにおける正孔および電子スピンの結晶成長方向g因子の個別評価と,歪み誘起価電子帯混合度の評価から,両者の相関を実験的に明らかにした.本研究課題で着手する正孔スピンの初期化技術は,正孔g因子制御に基礎を置くものであることから,これに関する知見を得ることは重要であり,この成果を学術論文誌に発表した.更に,面内方向のg因子評価にも着手しており,正孔g因子が面内・面直の両方向において異方性を持つことを明らかにすると共に,理論計算による考察から,外部歪みを用いた正孔g因子制御の可能性に関する検討を進めている.この成果については,H27年度に開催される国際会議で発表する予定である.H27年度は,今年度導入した試料回転機構を活用して,g因子の面内異方性についてより系統的なデータを蓄積することに加え,圧電素子に試料を貼り付けて,外部歪みによる正孔g因子制御の実証を継続する. 2) 正孔スピンコヒーレンス測定および光ポンピングの実証に有効なカー回転分光法の感度を上げる努力をするとともに,CdTe量子井戸において,負の荷電励起子生成のダイナミクスがスピン歳差運動の初期位相に与える影響を解明した.この成果は,本研究で対象とする正の荷電励起子にも適用できるものであり,重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において,正孔g因子制御の可否が成功の鍵であり,それに向けて外部歪みと関連を持つ価電子帯混合との相関を得ることは極めて重要である.現在までに,結晶成長方向および面内方向のg因子に関するデータの蓄積が進んでおり,学術論文誌に掲載されたことはもちろん,これらの成果に関する発表は国内外での会議でも注目されている. 更に,試料回転機構を導入したことで,より系統的なデータの取得が期待できることに加え,海外の大学のグループ (台湾国立交通大学,鄭舜仁 教授)との共同研究により,理論計算による考察も進んでいることから,今後も継続して成果を上げることが見込まれるため,おおむね順調に進展していると言える.g因子の外部歪みによる制御には,試料の基板除去などのプロセス技術の習得が必要となるが,これはH27年度に着手する.また,単一量子ナノ構造におけるカー回転分光法の適用には,更なる感度の向上が必要となるので,これはH27年度も継続して行う.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に引き続き,正孔スピンの初期化技術の確立を目指して,価電子帯混合による重い正孔スピンg因子の制御に加え,正孔スピンコヒーレンスの測定および光ポンピングの実証に着手する.
前者については,H26年度に,歪み誘起価電子帯混合と成長方向の電子・正孔g因子の相関の実測および理論計算による考察を行った.g因子制御によるスピンの任意操作を実証するには,直交する2方向のg因子を,符号反転まで含めて制御する必要がある.H27年度は,H26年度に導入した試料回転機構を活用して,単一量子リング (もしくは量子ドット) 試料の面内g因子に関する詳細な測定を行うとともに,理論計算との比較から更なる知見を得る.また,外部歪みによるg因子制御を実証するために,必要となるプロセス技術の習得に努めると共に,圧電素子を用いた外部歪み印加を行うための準備を進める.
後者については,H27年度も継続してカー回転分光測定法の検出感度の向上に努めると共に,ハンル効果によるスピンコヒーレンス評価に着手する.ハンル効果測定は,測定精度の観点ではカー回転分光系より劣るが,比較的容易に取得できる発光の円偏光度をプローブとするため,信号強度が微弱な単一量子ナノ構造においても,有効であると期待される.また,正孔スピンの超微細相互作用が価電子帯混合に依存すると考えられることから,価電子帯混合度が正孔スピンコヒーレンスに与える影響についても吟味する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の報告を行うため,H26年度末に応用物理学会 (第62回春季学術講演会) に参加したが,天候不良のため出張期間を短縮することとなった.そのため,旅費に差額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の旅費に充てる予定である.
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