本研究ではホタル生物の発光体であるオキシルシフェリンや、その誘導体の分光学的性質を実験的に観測し、ホタル生物発光の機構を明らかにしてきた。昨年度の理論的な研究により、ホタルのオキシルシフェリンの6種類ある共役酸・塩基のうち5種類で実験と理論が良い一致を見た一方、フェノレート・ケト型の共役塩基で実験結果と計算結果がずれた点をうけ、オキシルシフェリンおよびその誘導体を含めた更なる実験が必要と判断した。本研究はホタル生物発光以外にもバクテリアルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、ヴァルグリン、セレンテラジンといったほかの生物発光の発光体の、光ルミネッセンスの発光励起スペクトルの定量測定をはじめとして光学的性質を測定し理論的に解析することで、生物発光の機構への理解を深めることが期待出来るが、これらの実験を進めるためには室温では不安定な生物発光体およびその類似体を低温で保管する器具、安定で波長可変な光源および分光器とそれに付随する光学系が必要であるため、東京大学物性研究所でのみ実験が可能な状況であった。今年度は今後を含めて福島再生可能エネルギー研究所でも多様な生物発光体の光ルミネッセンス測定の実験を可能とするための光学系作成を行った。すでに導入され現在他の実験では使用されていない光学除振台、暗幕、小型分光器を組み合わせて光学系を組むことでクロスニコルの光ルミネッセンス測定系を組み、発光体を含む溶液の光ルミネッセンスを励起波長を変えながら測定を行うことが可能となった。
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