研究課題/領域番号 |
26800165
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 行章 東京大学, 物性研究所, 助教 (30442924)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超高速現象 / 光電子分光 / 時間分解 / トポロジカル絶縁体 / 銅酸化物高温超伝導体 / ワイル半金属 |
研究実績の概要 |
電子状態を観測する強力な手段である角度分解光電子分光法(ARPES)とフェムト秒域のパルスレーザーを融合させたポンプ・プローブ型の時間分解ARPES(TrARPES)を用いて、光パルスによって物質に誘起される非平衡状態の研究を行った。平成27年度における実績の概要を以下に報告する。 まず、前年度までに行ってきた銅酸化物高温超伝導体に現れる詳細電子構造の超高速光応答を精査した。これまで別個と考えられてきたバンド分散に現れる折れ曲がり(キンク)構造とフェルミアークの出現が関連することを見出し、BCS機構とは全く異なる超伝導消失のメカニズムを議論した(Scientific Reports誌に発表)。 次に、トポロジカル絶縁体や、ワイル半金属の研究を進めた。前年度に誌上発表したSmB6の表面に現れる光起電力の発見に引き続き、バルク絶縁性の強いトポロジカル絶縁体Bi2Te2Seの表面に巨大な光起電力が生じることを見出た(Physical Review Letters誌に発表)。p型トポロジカル絶縁体Sb2Te3に赤外フェムト秒域パルスを照射すると、励起された電子が非占有側の表面ディラックバンドのディラック点をまたいで過渡的に反転分布することがわかった(Scientific Reports誌に発表)多層ディラック電子系物質として注目されるSrMnBi2のTrARPESを行い、光パルスから物質へのエネルギー変換過程が、2温度モデルの体系でよく理解できることを示した(Physical Review B誌に発表)。平成27年度に新たに提案されたII型ワイル半金属(Mo,W)Te2の非占有側のバンド構造を調べ、フェルミアーク様の分散が存在することを示した(査読中)。 このほか、平成27年度中に完成した)高繰り返し小型ファイバーレーザーをもちいた時間分解ARPES法について論文を投稿した(査読中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TrARPES法の開発改良を進めてきた結果、光誘起超高速現象の電子状態を迅速かつ精確に観測することが可能となった。これにより、国際的に競争の激しい新種のトポロジカル物質の検証において、世界に先駆けてデータを提示できるようになった。特に6 eVプローブのTrARPES装置はフェムト秒域で世界最高分解能10.5 meVを有し、非占有側のバンド分散を精度よく測定することができる。これを用いてARPESでは原理的に不可能な検証を可能にした。具体的には、平成27年度中に理論的に提唱されたII型ワイル半金属(Mo,W)Te2について、非占有側に存在する表面フェルミアークを直接観測することに成功し、論文を投稿した。 基礎的にも超高速現象への理解が深化した。多層ディラック電子系物質であるSrMnBi2に照射したパルス光のエネルギーが物質へ変換される過程を詳細に調べたところ、この変換過程がポンプ光の強度依存性まで含めて2温度モデルの体系で説明できる初めての事例であることを明らかにした。これまで2温度モデルは、簡便ではあるが作業仮説の域を抜けないモデルと看做されることさえあったが、2温度モデルを基により複雑なダイナミクスを理解する方針に礎をあたえた。 以上の理由から、当初計画していた以上の進捗が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高い分解能と高い繰り返し数を有する高精度TrARPES法を確立した。これにより迅速かつ精確に光誘起超高速現象の電子状態を観測することが可能になった。これらの装置を用いて、まず、光誘起現象の基礎的理解を固めていく。具体的には、代表的な一次元系であるカーボンナノチューブの光応答の解明を進めている。引き続き、国際競争の激しいトポロジカル物質の検証を臨機応変に行う。現在、Nodal line semimetal, Weak Topological insulator, Topologically entangled Rashba statesの検証が進行している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究計画における成果をオープンアクセスジャーナルに掲載することを計画しています。このため、得られた研究成果をより精緻なものにするために、データ検証等を時間をかけて行う必要があるので、補助事業期間の延長を申請します。具体的な掲載内容は、カーボンナノチューブにおける光励起状態とダイナミクスの解明です。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の経費は、論文投稿料や研究打ち合わせのための費用として使用する予定です。
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