本研究は、半球型光電子分析器を用いたレーザー励起高分解能光電子分光の測定時間を桁違いに短縮する深紫外光源の開発を目的とする。高分解能かつ高効率測定を両立するため、繰り返し周波数74 MHz、パルス幅10 ピコ秒のモード同期チタンサファイア発振器の基本波の四倍波(波長209 nm)を、ファブリーペロー(FP)共振器を用いることで、光源の繰り返し周波数を元の15倍の1.1 GHzまで上げた。実際に金の多結晶の光電子スペクトル測定を行い、測定時間が二桁以上短縮できたことにより、光源の有効性を確認できた。 さらに、FP共振器出力の強度変調を最大限に抑えるためには、高フィネスFP共振器による不要な縦モードの除去が必要である。このためには、モード同期レーザーの縦モード揺らぎを高フィネス共振器の線幅の四分の一以下に抑える必要がある。縦モード揺らぎを制御するため、サブ100 kHzの単一縦モード狭線幅単一縦モードレーザー(外部共振器付き半導体レーザー)を作製し、これにピコ秒モード同期レーザーの一つの縦モードが周波数同期するように、チタンサファイア共振器長(すなわち繰り返し周波数)の動的制御を行った。レーザーの縦モード揺らぎの主要な原因はオフセット周波数ではあるものの、本研究で用いた10ピコ秒パルスレーザーの発振スペクトルは縦モード数が高々1000本程度であるため、繰り返し周波数制御による縦モードの安定化が可能である。周波数応答が異なる二種類の圧電素子をレーザー内部のミラーに装着し、さらに、機械的共振がフィードバック帯域に現れないように設計した自作ミラーマウントを用いることで、ピコ秒レーザーの縦モード揺らぎの能動制御を実現した。
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