最終年度(平成27年度)の研究目的として、前年度からの継続課題である新奇な結晶構造を持つ磁性体の合成と、不安定価数や量子スピンを持つ新規物質の探索を掲げた。 新奇な結晶構造を持つ磁性体の合成では、前年度に報告したRbV3Ge2O9(S=1)の追加調査を行った。平行配列したダイヤモンド鎖を持つ遷移金属酸化物は新たにMnを磁性元素とした新規物質が報告されたが、約50Kで磁気転移を示す。しかし、RbV3Ge2O9ではフラストレーション系で注目される磁気相転移の有無について、巨視的な磁性測定からは明確な証拠が得られていなかった為、電子スピン共鳴測定により極低温における電子状態を明らかにしている。また、より詳細な結果は比熱測定を終えた後にまとめて公表する予定である。 また、同じく新奇遷移金属酸化物として合成に成功した、Mo元素が層状カゴメ格子を形成しておりVがカゴメ格子層を隔てているK2V2Mo3O11ではVとMo両元素が磁性を担う可能性があった。最近報告された類似物質ではNaV6O11のカゴメ層部分をMoが置換した結晶構造を取ることが報告され、Moが6価(非磁性状態)を取り、3価を取るV(S=1)が低温でダイマー化し非磁性状態を取ることが示唆されている。この物質との構造的及び磁気的類似性からK2V2Mo3O11でも同様にVが3価を取り低温でダイマー化すると考えられる。またMoは4価と5価を持つサイトが存在し、不安定価数元素がカゴメ格子を形成する稀な物質の合成に成功したと考えられる。この物質については、光電子分光で磁性元素の価数を分析した結果と合わせて公表を予定している。 これらの結果は、フラストレーション磁性体の合成及び物性両面に於いて研究の発展に重要な役割を果たすものと考えられる。 本研究に於いて2つの新奇磁性体の合成を行い、磁性測定等から基底状態について幾つかモデルを示唆した。
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