研究課題/領域番号 |
26800173
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
橋本 顕一郎 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00634982)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電荷秩序 / 赤外分光 / 有機導体 / 超伝導 / 高圧実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、長距離クーロン相互作用と幾何学的フラストレーションの効果が顕著な電荷秩序系有機導体において、電荷自由度を外部から変調操作することにより、電荷秩序を融解/凍結させて、多彩な電子相を探索・創出することを目的としている。本年度は、物理的圧力効果により格子パラメータを制御する実験手法を確立するために、高輝度放射光施設SPring-8において、ダイアモンドアンビルセルを用いた高圧下赤外分光測定を行った。電荷秩序系有機導体θ-(BEDT-TTF)2X(X=CsZn(SCN)4,I3)を測定する前段階として、まず圧力誘起超伝導体であるダイマーモット絶縁体β'-(BEDT-TTF)2ICl2の高圧下における赤外分光測定を行った。その結果、β'-(BEDT-TTF)2ICl2で発現する転移温度14Kの超伝導では、反強磁性揺らぎに加えて、ダイマー内の電荷揺らぎも重要な役割を担うことを明らかにした。この結果は、高温超伝導を実現する際の物質設計に重要な指針を与えるものである。また、当該年度はピストンシリンダー式圧力セルを用いて電気抵抗率の温度依存性を測定できる実験システムを構築した。このシステムを用いて、一次元電荷秩序絶縁体α-(BPDT-TTF)2ICl2の温度-圧力相図を明らかにした。その結果、常圧下で電子相関の効果により発現していた電荷秩序相が、圧力印加によるバンド幅の増大により、フェルミ面のネスティングによるCDW相へと変化することを明らかにした。この成果はバンド幅の大きさにより金属-絶縁体転移が電子相関によるものからフェルミ面の不安定性によるものへと変わることを実験的に示したもので、今後さらなる高圧力印加により、超伝導相や量子臨界点の出現などが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ダイアモンドアンビルセルを用いた高圧下赤外分光測定により、圧力誘起超伝導体β'-(BEDT-TTF)2ICl2の格子パラメータを精密に制御し、高圧下で電荷自由度による非従来型超伝導発現の可能性を指摘した。本研究により確立された圧力下での赤外分光測定を電荷秩序系有機導体θ-(BEDT-TTF)2X(X=CsZn(SCN)4,I3)に適用することで、電荷秩序の融解/凍結を実現し、今後多彩な電子相を探索・創出することが可能である。これらを踏まえると研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、物理的圧力効果による格子パラメータの制御により、θ-(BEDT-TTF)2Xの基底状態を連続的に変化させ、温度-圧力相図を完成させる。そのうえで、圧力下における光学伝導度測定を行い、ドルーデ応答や集団励起などの低エネルギー励起を調べる。そのためにまず、X=CsZn(SCN)4とX=I3に対して、静水圧下での電気抵抗率を測定を行い、温度-圧力相図を得る。その上で、圧力下における赤外分光測定を行い、系の基底状態が電荷グラス相から電荷液体相へと連続的に変化していく過程で、低エネルギー励起が集団励起からドルーデ応答へどのように遷移していくかのかを明らかにする。
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