研究課題
幾何学的フラストレーションを有する量子スピン系において、強磁場中で現れると予想されている磁化プラトーやスピンネマティック状態等の新奇な量子相を調べるために、候補物質ボルボサイトCu3V2O7(OH)2・2H2OおよびNaCuMoO4(OH)の核磁気共鳴(NMR)測定を進めた。ボルボサイトは28 T以上で1/3磁化プラトー、その直前の磁場領域(23-28 T)で新奇磁気相が現れるが、これがスピンネマティック相である可能性が指摘されている。この相の情報を得るために平成26年度は東北大金属材料研究所のハイブリッドマグネットで20~24 Tの磁場領域、1.5-4.2 Kの温度範囲におけるNMR測定を行った。スペクトルの温度依存性から20-23 Tにおける相境界を決定した。また、核磁気緩和率1/T1の測定を行い、20 T以下の磁気相と23 T以上の磁気相で1/T1の温度依存性の振る舞いが定性的に異なることを見出した。他方、一次元フラストレート鎖の候補物質NaCuMoO4(OH)においては、磁気相転移温度が1 K以下と低く、実際どのような磁気状態が実現しているか明らかではなかった。平成26年度は希釈冷凍機内でピエゾモーターにより試料の角度を制御し、精密なNMR測定を行った。その結果から、1.5 T以下ではスパイラル、1.5 T以上ではスピン密度波の秩序状態が実現していることを明らかにした。このことから、NaCuMoO4(OH)は最近接の交換相互作用が強磁性的、次近接の交換相互作用が反強磁性的で競合する一次元フラストレート鎖物質であることが明らかとなった。この磁気モデルにおいては、理論的に、磁化が飽和する直前にスピンネマティック状態が実現することが示されている。NaCuMoO4(OH)は26 Tで磁化が飽和するので、平成27年度にグルノーブル強磁場施設で30 Tまでの強磁場領域におけるNMR測定を実行するための準備を進めた。
2: おおむね順調に進展している
幾何学的フラストレーションを有する量子スピン系において期待される新奇な量子相を、強磁場中の核磁気共鳴(NMR)測定で直接観測し、その物理的性質を実験的に解明する目的に向けて順調に進んでいる。平成26年度は東北大金属材料研究所のハイブリッドマグネットでボルボサイトCu3V2O7(OH)2・2H2OのNMR測定を20~24 Tの磁場領域、1.5-4.2 Kの温度範囲において行った。この結果及び経験から、測定システムの改良を行い、平成27年度は東北大金属材料研究所のハイブリッドマグネットで20~26 Tの磁場領域、0.5-4.2 Kの温度範囲で測定を行う予定である。これにより、23-28 Tの磁場領域に現れるボルボサイトの新奇相の構造や励起等の物理的性質を実験的に解明することができると考えられる。また、一次元フラストレート鎖の候補物質NaCuMoO4(OH)においては、平成26年度は、希釈冷凍機内でピエゾモーターにより試料の角度を制御した精密なNMR測定行い、1 K以下の磁気構造を明らかにした。この結果から、最近接の交換相互作用が強磁性的、次近接の交換相互作用が反強磁性的で競合する一次元フラストレート鎖物質であることが明らかとなった。平成27年度にグルノーブル強磁場施設で、スピンネマティック状態が実現すると期待される26 T前後の磁場領域のNMR測定を遂行するための準備が整った。スピンネマティック相を、強磁場中のNMR測定で直接観測し、その物理的性質を実験的に解明できると考えられる。
平成27年度は東北大金属材料研究所のハイブリッドマグネットでボルボサイトCu3V2O7(OH)2・2H2O のNMR測定を、20~26 Tの磁場領域、0.5-4.2 Kの温度範囲で行う予定である。これにより、23-28 Tの磁場領域に現れるボルボサイトの新奇相の構造や励起等の物理的性質を実験的に解明することができると考えられる。また、一次元フラストレート鎖の候補物質NaCuMoO4(OH)においては、スピンネマティック状態が実現すると期待される26 T前後の磁場領域のNMR測定をグルノーブル強磁場施設で遂行する計画である。強磁場中のNMR測定でスピンネマティック相を直接観測し、その物理的性質を実験的に解明できると考えられる。これら以外にも、フラストレート正方格子候補物質RbMoOPO4Clおよび、カゴメ格子物質ベシニエイトBaCu3V2O8(OH)2の単結晶NMR測定を進める。両物質共に、強磁場領域において、磁化プラトーやスピンネマティック状態などの実現が期待される物質である。研究の進捗状況に応じて、これら物質の強磁場NMR測定を行うことを検討している。
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