研究課題/領域番号 |
26800178
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古府 麻衣子 東京大学, 物性研究所, 助教 (70549568)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中性子散乱 / 希土類元素 / 単分子磁石 |
研究実績の概要 |
単分子磁石とは、ナノスケールの単一分子が大きな磁気モーメント・磁気異方性を有し、磁化反転過程が非常に遅くなる物質群のことである。1980年にMn系単分子磁石が発見されて以来、遷移金属イオンを含む単分子磁石が精力的に開発されてきた。2000年以降、希土類イオンを基にした単分子磁石が開発され、注目を集めている。本研究では、Zn-Ln-Zn三核錯体に着目し、研究を進めている。分子には2つの非磁性Znイオンと、希土類磁性イオン1つが含まれている。3つの金属イオンを含むものの、磁性イオンは1つのみであり、「単イオン磁石」と捉えることができる。これらの金属イオンがほぼ直線上に並んでおり、比較的対称性が高く、同構造を保ったまま希土類イオンを変えることができるのも特長のひとつである。本研究の目的は、これらの錯体の磁化反転メカニズムを明らかにすることである。 H26年度に、CeおよびPr錯体についてJ-PARCに設置されたAMATERAS分光器を用いて中性子非弾性散乱測定を行った。ここで、Ce(J=5/2)はクラマース、Pr(J=4)は非クラマースイオンである。興味深いことに、Ce錯体は単分子磁石的挙動を示す(ms程度の遅い磁化反転が観測される)が、Pr錯体は非単分子磁石である。これは、スピンパリティと磁化反転メカニズムが密接に関連していることを示唆している。中性子散乱の磁気励起にも明瞭な違いが見られた。Pr錯体では3.5 meVのエネルギーに磁気励起が観測されたのに対し、Ce錯体では強い磁気励起はE < 15 meVの範囲では確認できなかった。H27年度は、中性子散乱測定結果についてさらなる解析、考察・検討を行った。その結果、Ce錯体で、弱くブロードな励起が5 meV付近に確認された。しかしながら、磁気励起の強度は予測される遷移強度より5倍以上弱く、非常に不思議である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H27年度は予定していた中性子散乱測定を行うことができなかった。理由として、J-PARCが長期稼動せず、マシンタイムを獲得することができなかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度はNd錯体の中性子散乱測定を行う。Nd(J=9/2)はCeと同様にクラマースイオンであり、交流磁化測定によって単分子磁石挙動が観測されている。また、Ce錯体についても偏極中性子測定を行うことを計画している。Ce、Nd錯体ともに磁場誘起型単分子磁石であり、数百ガウス程度の磁場で非単分子磁石から単分子磁石へと挙動が変わる。H26年度に設計・制作した永久磁石付き試料セルを用い、磁場の有無で磁気励起がどのように変化するかを明らかにする。J-PARCだけではなく、海外の中性子散乱施設にマシンタイム申請を行い、測定を実現するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ターボ分子ポンプの価格が予想より低価格であったため、6万円の未使用金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は主に国内外の出張旅費に助成金を使用する。これは、中性子散乱測定および、学会発表等を行うためである。
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