研究課題/領域番号 |
26800179
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
酒井 志朗 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (80506733)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 銅酸化物高温超伝導体 / 周波数依存構造 / 自己エネルギー / 動的平均場理論 / 冷却フェルミ原子気体 / フェルミオン的励起 / 擬ギャップ / BCS-BECクロスオーバー |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体の標準的な理論模型と考えられている2次元斥力ハバード模型について、電子相関効果を精度よく取り込んだ数値計算シミュレーションを行うと、キャリア濃度と温度に応じてモット絶縁相・フェルミ液体的金属相・異常金属(擬ギャップ)相・高温超伝導相を示し、実際の銅酸化物の実験結果とよく似た相図が得られる。この事実のもとに、2次元ハバード模型の電子状態を数値計算シミュレーションにより詳しく調べ、擬ギャップ及び高温超伝導の原因となる隠れたフェルミオン的励起の存在を見出した。従来の理論は、擬ギャップや高温超伝導の原因を電子の集団から生じる何らかのボソン的励起に求めており、フェルミオン的励起が役割を果たしているというこの数値計算結果は常識を覆すものである。この数値計算結果を更に深く解析することで、擬ギャップと超伝導が互いに密接に関連はしているものの、異なる特異点に由来するギャップであることを見出した。この結論は、擬ギャップと超伝導の関係について長う年続いている論争に、微視的な立場から一つの解答を与えるものである。 次に、強く相互作用した電子系におけるフェルミオン的励起の存在の普遍性と、それが存在する電子状態の性質についてより深い洞察を得るために、無限次元の引力ハバード模型の電子状態を詳しく調べた。引力ハバード模型は、冷却フェルミ系で実現する状態を良く記述する模型と考えられ、低温でs波の超伝導状態、高温では引力の強さに応じてフェルミ液体的状態・局在した電子ペアによる非フェルミ液体的状態を示す。後者の非フェルミ液体的状態では、一電子スペクトルにスペクトルにギャップが見られ、銅酸化物との類推でしばしばこれも擬ギャップと呼ばれる。この擬ギャップとその低温側の強結合超伝導状態の間にも、斥力ハバード模型と共通の電子構造、すなわちフェルミオン的励起が生み出す構造、を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた銅酸化物の動的電子構造、特に異常自己エネルギーや超伝導ギャップ関数に現れるピーク構造、の理解については、電子と混成する隠れたフェルミオン的励起の存在という予期していなかった発見により、理解が大幅に進展した。また、隠れたフェルミオン的励起が存在する場合の電子系の一般的性質を考察することで、擬ギャップと超伝導の関係についても、微視的なレベルで新たな知見が得られた。この隠れたフェルミオン的励起を検出する実験手段についても考察した。 更に、この斥力ハバード模型で得られた知見をもとに、引力ハバード模型の超伝導及び擬ギャップ状態についても研究を進めた。引力ハバード模型の研究は当初予定していなかったが、斥力模型に比べ数値計算上の取り扱いが簡単であるため精密な解析が行えたことで、深い理解が得られた。この研究は斥力模型との比較対象としても有意義であり、実際、いくつかの非自明な類似点・差異を明らかにでき、斥力模型における隠れたフェルミオンの正体についての洞察が深まった。また、この引力模型の結果は、銅酸化物のみならず冷却フェルミ原子気体等の研究にも波及しうると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2次元斥力ハバード模型で見出されたフェルミオン的励起の正体、つまり励起の起源及び数学的表現について、今後更なる研究を進める。まず、実行可能かつ重要なのは、温度・キャリア濃度・相互作用の強さを変えた場合に、フェルミオン的励起の特徴、つまりピーク位置や強度がどのように変化するかを調べることである。これにより、まずは数値計算結果の中で、フェルミオン的励起の特徴を明らかにし、理論的解明の手掛かりを得る。 数値計算としてもう一つ詳細に研究すべきは、キャリア濃度がゼロで現れるモット絶縁体との関係である。上述のフェルミオン的励起は電子の自己エネルギーのピークとして現れるため、モット絶縁体を特徴づける自己エネルギーのピークとどのような関係があるかは興味深い問題である。この点を理解することで、また別の手掛かりが得られるものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外への旅費等は為替相場の変動の影響も受け予測困難なため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の助成金と合わせて、国際会議出席の旅費に使用する。
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