研究課題/領域番号 |
26800181
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
栗田 伸之 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80566737)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子相転移 / 量子磁性体 / 幾何学的フラストレーション / 磁化測定 / 高圧力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、圧力を外部パラメータとした基底状態の系統的制御によりフラストレート量子磁性体における圧力誘起量子相転移を発見することである。主な対象物質は、幾何学的フラストレーションと小さいスピン量子数により顕著な量子効果が期待されるS=1/2籠目格子反強磁性体である。本年度はまず、基底状態が反強磁性秩序を示すCs2Cu3XF12(X=Sn,Zr,Hf)及び(Cs,Rb)2Cu3SnF12の試料育成を行った。純良単結晶は白金パイプを用いた徐冷法により得られるが、加熱過程において白金パイプの破裂や試料漏れの問題がしばしば起きていた。そこで白金パイプをその形状に合わせて加工したニクロム板で固定すると共に、白金パイプの溶接方法を改良した。これらにより加熱過程で生じる問題は解決し、安定して純良単結晶試料が得られるようになった。Cs2Cu3SnF12(TN=20 K)及びCs2Cu3ZrF12(TN=24 K)の1.5GPaまでの高圧力下磁化測定を行った結果、いずれの物質においても測定範囲内では基底状態に顕著な変化は見られず、圧力効果が非常に小さいことが分かった。 以上と平行して、基底状態が一重項で励起状態との間にエネルギーギャップを有するCsFeCl3を対象とした研究も進めた。常圧において0.5 Kまでの極低温磁化測定を行い、磁場誘起秩序相をより低温領域まで明らかにし臨界指数を決定した。更に高圧力下磁化測定を行った結果、圧力を印加するとギャップは小さくなり、約1 GPaにおいて基底状態が非磁ギャップ相から反強磁性相へ相転移することを明らかにした。異なるバッチの試料に対しても同様の高圧力下磁化測定を行い、再現性のある結果が得られることを確認した。これらの研究成果について日本物理学会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である本年度は、S=1/2籠目格子反強磁性体Cs2Cu3SnF12、Cs2Cu3ZrF12、Cs2Cu3HfF12及び(Cs,Rb)2Cu3SnF12の純良単結晶育成を行い、Cs2Cu3SnF12及びCs2Cu3ZrF12に関しては1.5 GPaまでの静水圧力下磁化測定を行った。いずれの物質においても測定範囲内では基底状態に顕著な変化は見られなかった。一方、基底一重項磁性体CsFeCl3に関しては常圧における低温磁気相図及び高圧力下における詳細な磁気相図を明らかにすることができた。以上を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の未解決課題に取り組むと共に、S=1/2籠目格子反強磁性体の1.5 GPa以上の圧力領域及び一軸性圧力下における磁化測定を行う。測定範囲内では量子相転移を観測できない場合も想定される。そこで、既に単結晶試料が得られているスピンギャップ磁性体等における圧力誘起量子相転移の探索も平行して行う。得られた測定結果について十分な解析及び議論を行い、論文執筆や国内外での学会発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、単結晶育成のための粉末原料や圧力発生装置の消耗部品の購入も支出の多くを占める。これらは研究の進捗や装置の状態に応じて、随時補充していく必要がある。本年度は当初の予定よりも高額な粉末原料や消耗部品の交換が少なかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分の研究費は、主に一軸性圧力発生装置や学会の参加費に使用する。繰り越し分に関しては、単結晶育成のための粉末原料及び圧力発生装置の消耗品に充当する。
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